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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
12章 クロスステッチの魔女の気まぐれ旅

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244/1070

第244話 クロスステッチの魔女、新体験をする

「では魔女様、服を脱いでこの籠に入れてください。お持ちなら、腰に何か巻いていただいて」


 服を脱いで、外せないガラスの首飾りと水代の腕輪、腰布をつけただけの姿になる。よく動くからだろう、引き締まった裸体に腰布と水代の腕輪だけのアイシャが「では行きましょう!」と天井に小さく拳を突き上げた。


 遠い故郷は山の中で、温かい水が湧き出している場所を使ってお風呂に入っていた。平地にあるお師匠様のところでは水浴びが主で、いくら魔法があるとはいえ火で温めてやらないといけないのが手間だった。そして、ところ変わって異国ではどうかと言えば――


「うわぁ、これは……湯気?」


「はい!」


 扉を開けた途端、肌へと雪崩れ込むのは真夏の上空のような暑さと白い霧。その奥は石かタイルで作られた窓のない部屋になっていて、その割に明るく感じるのは切り出した光岩の欠片があちこちに置かれているからだろう。幾重にも反響して何を言っているかわからなくなっている、女達の絶え間ないおしゃべり。霧の中にぼんやりと浮かぶ、大小様々な人影。腰布をつけていない人もいるのは、やはり布が高いからだろう。後で体を拭くための一枚と腰布と分けられるようになったのは、私も魔女になって自分で織るようになってからだった。


「なるほど、これが話に聞いた蒸し風呂……!」


「浴場中を覆う沢山の蒸気が私達の体を包んで、悪いモノを汗と一緒に流してくれると言われています」


 あちこちに椅子があるのは、悪いモノを流しきるまで座って過ごすためのものだろう。何人かは寝そべってもいるようで、誰か別の女が寝そべっている彼女たちに何かをしているようだった。


「あれは何をしているの?」


「浴場専任の、女垢すり師です。彼女達がゴシゴシやると、より悪いモノが流れてくれるそうです!」


 悪いモノ、は多分、私の故郷で風邪の種と呼ばれていたものだろう。外には見えないそれらがうようよしているから、体の中に入ってきたら風邪をひいてしまう。昔の、そんな話をふと思い出した。


「やってみます? 今はみんな施術中だから待ちますけど、お代はかかりませんよ」


「その前に髪を洗いたいかな」


 ならあそこです、と案内された先には、湯気を立てる泉といくつかの手桶、短い髪を洗う女達がいた。他の女達の見様見真似で洗い始めるが、石鹸を自分で作って持ってくるべきだったかもしれないと思った。量も必要だし、洗った時の感覚が違う。けれど、洗い終わった髪からほんのりと薔薇の甘い香りがするのはいい感覚だった。たまには、遠くに行くのも悪くない。

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