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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
12章 クロスステッチの魔女の気まぐれ旅
239/1021

第239話 クロスステッチの魔女、旅先の料理を食べる

「マスター、この辺りはなんて国になるんですか?」


「うーん、確か……リッタイト、だったかな? 言葉はまだ通じる方だけれど、文字が違うのを忘れてたわ」


 魔女組合でも多少は食事ができることが多い。それで聞いてみたところ、やっぱり頼むことができたので、私はそのまま組合でご飯を食べることにした。教えてもらった机に座って、おすすめされた『ユーリッツとポルレの煮物』を注文する。料金も聞いていたけれど、そこまで高くもなかったから頼んでみようという気にもなったのだ。


「伸びパンもつけますか?」


「伸びパン?」


「西から来た方でしょう。西の膨らみパンと違ってそこまでふわふわしていませんが、おいしいですよ。煮物の汁を拭って食べるのがおすすめです」


「じゃあ、それを。この子達にも分けてあげたいから、小さいお皿も付けてください」


「わかりました」


 そう言って一礼した魔女に目礼を返して、ルイス達と「どんなのが来るか楽しみだね!」と話し合う。


「マスターは何か知ってるんですか? ユーリッツとポルレってなんでしょうか」


「私も何も知らないの! だからこそ、何が起きるか楽しみだわ」


 周囲を少し見回してみると、同じように食事に来た魔女達が何人か見える。高そうなツンとくる香辛料の匂いがこちらにまで香ってくるということは、結構入っているらしい。きっと店で一番高い料理が人気なのだろうな、と思った。胡椒の実の干してあるものや、乾燥させた香草の葉などは、買うにはちょっと高い。魔法で作った砂糖菓子の砕いたものや、魔力を染み入らせてから削った岩塩なんかは、自分で作れたりするから買うこともないし、料理の味付けにはそこまで困らないけれど……。


「おまたせいたしました。『ユーリッツとポルレの煮物』、伸びパンつきです」


 伸びパンを付けても銀貨一枚しか値段が変わらないなんてお得、と思いながら、届いた食事を見て驚いてしまった。伸びパンは私の手のひらよりも少し大きいくらいだったし、煮物からは他の魔女が食べていたような香辛料の匂いがする。深皿の中には大きく切られた白身の魚と、ナッツ、散らした香草が入っている。汁の色は少し茶色というより赤くて、匂いを吸い込んでみると額が痺れるような感覚を一瞬覚えた。


「うわあ、すっごい匂いですね!」


「いたそー!」


 意を決して、一口。慣れていない味に舌が驚いたけれど、多分、これが『辛味』だ。人間だった頃、冬に良く食べていた料理も多少辛かったと思い出してみたけれど、味が全然違う。伸びパンをちぎって汁につけて、小さく切った魚も乗せてみると、これは本当においしかった。

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