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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
12章 クロスステッチの魔女の気まぐれ旅
234/1022

第234話 クロスステッチの魔女、冒険者と出会う

 旅を始めてしばらくは、のんびりとした時間が流れていた。行き合った村や町に立ち寄り、ささやかな魔法で人を助けたりもした。人家がなければ、森で眠った。花を集め、石を拾い、風を浴びて、時折草を編んだ。鍋は持ってきていたけど、染め液を作るよりただ集めるのが楽しかった。

 ルイスとアワユキに星を教えたり、昔聞いた物語を語ったりもした。満月の夜は、カバンに入れていた本を少しだけ読んだ。二人は物語を聞くのが好きなようだったから、読み聞かせるいい練習にもなった。


「今夜はここで寝ましょうか。……おやすみなさい」


「「おやすみなさーい」」


 その日の夜は近くに家もなかったので、いつものように木の上で眠った。枝の方角から見ると朝日に起こされることになりそうで、少し疲れててそれが嫌だった私は、カバンから一枚の黒い布を出してこれを被った。光を吸い取る糸に、反対側への光を遮る弱い魔法をかけた布。新しいカーテンにしようとして買って、そのまま忘れてカバンの中に入れっぱなしにしていた布だった。結構、この旅では使い勝手がいい。この夜は奇妙な夢も見ず、ルイス達に起こされることもなく、すやすやと眠り続けて……問題は、翌朝のことだった。


 私達以外に人気のなかったはずの森の中で、人の声で目を覚ましたのだ。布の中に射し込む光は大きく遮られているから、まだ夜なのか明けているのかはわからない。ルイスとアワユキはまだ眠っていたから、その間に懐に入れていた投擲用の石をひとつ、掴んだ。思えば昔も、こんな風に身構えていたことがあったのを思い出す。か弱い人間だった頃の癖で、つい警戒心が先に立ってしまっていた。

 魔女を襲うような、愚かな人間はそういない。どんな魔女でも魔法で身を守れるし、偽物は数多溢れていたとしても本物の《魔法破り》の品物なんて普通の人が手にできるところにはない。普通に手に入るものは、事前に道具に込められた魔法を破るのが精々。魔女本人がその場で繰り出す魔法までは、破れないものばかりだからだ。

 布から顔だけ出すと、弓を構えた男と剣を腰からさげた女がこちらを見て口をあんぐりと開けているのが見えた。二人が身につけているのは、硬く煮しめた焦茶色の革鎧。弓の男は景色に溶け込むためか、枯れ草色のマントと帽子を身につけていた。女は黒い髪と目をしていて、少し変わった形の剣が印象的だ。二人の右腕には、何かの骨を削ったと見られる乳白色の腕輪がされていた。冒険者だ。


「その……すみません。人だと、思わなくって」


「今後のために聞きたいんだけど、何に見えたの?」


「新手の魔物かなぁと」


 男の人がそう言って、女の人に小声で怒られていた。彼が弓を下ろして両手を少し上げるのは、敵意がないことを示す仕草だったので、私も石を投げるのはやめる。もう目も覚めてしまったので、《ドール》達を抱えて飛び降りる。


「ま、魔女様でしたか……」


 ガラスの首飾りを見た女の人の方が、少し引き攣った声でそう呟いたのが聞こえた。

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