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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
12章 クロスステッチの魔女の気まぐれ旅
231/1021

第231話 クロスステッチの魔女、野宿する

「こんなに夜遅くまで外にいたの、夜市の時くらいしかない気がします」


「今夜は泊まれそうなところもないし、外で寝るからね。もうちょっとしたら寝場所に行くから」


 《魔物避け》と《獣避け》の魔法のリボンを私とルイスの手首、アワユキの首に結ぶ。人気のない森の中で一晩過ごす方法は、人間の頃に学んでいたから何も怖くない。植物や木々はさすがに山と森で違うけれど、大体は同じだ。魔女になった今では、当時より色々とやりやすいところまである。


「ルイスとアワユキはどう? 泊まれる場所がなくて外で寝るの。流石に寒くなってきたら使えないけど、夏だからできることね」


「アワユキは好きー! こっちの方が慣れてる!」


 楽しそうなアワユキに対して、ルイスは何かを考え込む様子でいる。何か、引っかかるものでもあるのかもしれない。私の顔をぱっと見上げた時には、いつもの笑顔になっていた。


「最初は夜になってもどこにも入らないで、暗い森の中で眠るのって怖いな、って思ったんです。でも、マスターがいてくれるなら、怖くないです」


「かわいいこと言ってくれるじゃないの!」


 ルイスを撫でると、アワユキが自分も撫でて欲しいと主張してきたので、二人とも撫で回した。


「それで、どこで寝るんですか? 何か敷くとか?」


「それもありなんだけど、懐かしくなっちゃったから……」


 焚き火をした場所のすぐ側にある、大きくしっかりした木の肌に軽く触れる。歳経ても尚葉を茂らせた木であれば、落ちる心配もない。


「この木の枝をお借りするわ」


 木の根元に膝をつき、昔に教わったことを思い出してまじないの言葉を唱える。魔女として修めた魔法でこういったことはあまり使わなくなったけれど、無言でお借りするのも気まずかった。水を杯に一杯分、その根元にかけた。


「……古き木よ、歳経た木よ。太き枝に数多の葉を茂らせ、命を育む木よ。あなたの腕を一晩、我らはお借りし申す。甘き水を宿賃として、お許し下され」


 木が答えてくれたことはない。でも、私に根付いた山の民としての暮らしが必ずするようにと言ってくるのだ。箒で少し浮いて、低い位置にある太くてしっかりとした枝に乗る。体重をかけても、少し葉がざわめくだけで折れそうな様子はなかった。


「ルイス、アワユキ、こっちにおいで」


 手招きをして二人を呼び寄せると、特にルイスは葉から透けて見える星空をじっと見ていた。アワユキは精霊だった頃にこうしたことでもあったのか、慣れた様子で丸くなる。


「おやすみ、二人とも」


「「おやすみなさい、マスター/主様」」


 私も欠伸をひとつすると、懐かしい音を聞きながら眠りについた。

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