表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
2章 クロスステッチの魔女と鵞鳥番の娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/1033

第23話 クロスステッチの魔女、悪だくみする

「キュルト、ちょっと鵞鳥の羽を集めてきてくれる? もうすぐ日が暮れるから、戻り支度をしながらでいいから。持ってきてくれたら、お駄賃に砂糖菓子をいくつか作ってあげる」


「ほんと!? やくそくだよ!」


「ルイスもついて行ってあげて」


「はい、マスター」


 パタパタと走り去ったキュルトと飛んでいったルイスを見送り、「さて」と私はリズに向き直った。サリルネイアの問題にそこまで首を突っ込む気はない。ないけれど、リズの抱えている「もつれた糸」は……できれば、解きほぐしてやりたい。魔女の契約をしていなくても、ある程度不思議の力が使える存在—――魔法使いであるリズにとって、心の重荷は不思議の力を鈍らせ、暴走させる危険性を孕んでいるから。


(あんなことを、また起こしてはいけない)


 感傷を振り払って、リズにかける言葉を探す。これが長く生きた魔女達ならば、適切な言葉をかけられたのだろう。けれど私の経験も辞書も語彙も未熟で、結局、どうかと思うほどの単刀直入な言い方しかできなかった。


「リズ、あなた、本当はどこかのお姫様でしょう? 《血の護り》の魔法はとても古い気配があった。ハンカチがなくても、名残が残っているもの。《血の護り》は魔法とはいえ、形としてはただの布やハンカチ。役目を果たせば失せてもしまうし、古いものを受け継ぎ続けるのであれば相応の身分の者でなければ難しい。転居や結婚、死別、事故、火事、災害……形あるものを失くしてしまう、見失ってしまう出来事は沢山あるから。それでも持ち続けられるということは、名のある一族ということ。それに話し方や笑い方が、明らかにちゃんとした教育を受けた者のものだからね」


 キュルトは違和感程度にしかとらえられてないようだったが、それは王侯貴族と接するようなことがなかったからだろう。そう思いながら聞くと、リズは不安そうな顔をした。話していいか、悩んでいるんだろうか。


「安心なさいな。昔から言うでしょう、【魔女は身分の外にある】って。魔女はあらゆる国と身分とは関係のないところにいるから、困ったことを相談してみてもいいわよ。まあ、私はまだ40年くらいしか生きてないけど、話を聞くだけならできるから」


「よ、40……!?」


「15で魔女になって、20歳の頃に成長が止まって、ずっとそのまま」


 魔女の中では若い方だと思う。まあ、四等級試験にはもっと早く合格してしかるべきだったとはよく言われたけれど……。


「さあ、話してみて。キュルトもルイスも、しばらくは戻ってこないわ」


 リズはこくりと頷いて、恐る恐ると言った口調で話し始めた。


 自分の名前が、本当はリーゼロッテであること。サリルネイアに輿入れしてきた、アーユルエアの国の姫であること。輿入れについてきた侍女がお守りのハンカチを失った後に裏切り、自分が「リーゼロッテ姫」としてにお城に入ったこと。自分は「リーゼロッテ姫の侍女」として、お城の鵞鳥番を命じられたこと。輿入れの際に一緒に来た、喋る馬のファラダは殺されてしまったこと。髪を編み直す時に金髪をキュルトが掴もうとしたから、咄嗟に歌ったらその通りに帽子が飛んで行ってしまったこと……。


「なるほど、やっぱりリズはお姫様なのね。元の身分に戻りたいと思う? それとも、思い切って魔女になったり、鵞鳥番として生きていきたいと思う?」


「私が、サリルネイアとアーユルエアの友好の架け橋になれとお母様に言われたんです。元の身分に、戻りたいです」


「よし、じゃあ悪だくみをしないとね」


 話が終わった頃、ちょうどいいタイミングでキュルトとルイスが鵞鳥の羽を持ってきてくれた。真っ白い羽根は地面に落ちていたけれど、まだあまり汚れていない。鵞鳥がそこそこいたから、子供と《ドール》だけでもそれなりの量があった。


「ありがとう、二人とも。はい、お駄賃」


 羽をもらってから、砂糖菓子を渡す。


「今リズに聞いたんだけど、キュルトはお城の鵞鳥番なんだって?」


「うん! リズがこうはいなの!」


「ちょっとリズと相談していてね、この悪だくみにはキュルトの力が必要なんだけれど」


 二人はこのままサリルネイアの都にあるお城に、鵞鳥を連れて戻るのだという。その後にやってほしい悪だくみをキュルトの耳に囁きながら、私はサリルネイアのどこかに宿を取ろうと決めていた。

この辺りについてはグリム童話「がちょう番の娘」より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ