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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
11章 クロスステッチの魔女とばらばらの《ドール》
225/1022

第225話 修復師の魔女、弟子の成長を見る

「クロスステッチの魔女、あんたはルイスに甘いねぇ」


 パーツを乾かしている間、魔法糸の魔力を補わせて縒り直しをしている弟子の姿を見守る。この辺りはあたしの弟子として住み込ませた頃からある程度やらせていたから、あまり危なげもない。材料を組み合わせるセンスも、糸の縒り方も、問題ない。この辺りは、合格点をあげてもいいだろう。


「だって私が、ルイスのマスターですから。この子にタトゥーなんて入れて放り出したような前の持ち主と、私は違うんです。……それを、この子に示し続けていきたいんです」


 そう言いながら、クロスステッチの魔女の手は淀みなく魔法糸を綺麗にしていく。弟子に拾って20年経ち、いまだに人間の頃の癖の抜けない子だったけれど、成長が感じられて少し嬉しかった。見た目の成長は随分と前に止まって、少女というより女になったものの、内面は独り立ちを許してから変わったようだ。


「そういえば少し前、お姉様のお友達から《ドール》をお預かりしたんです。人形師の方で、ご自分の作られた《ドール》の受け答えとかが問題ないか、お姉様のところに行儀見習いに出して見てもらっていたんですって。イヴェットはいい子でしたから、きっと素敵な魔女の元に巡り会えると思いますよ」


「あー……あいつのところか」


 グレイシアの友人の人形師、と言われれば、心当たりがあった。彼女は試験的な……新種の核合成を試したりするような子で、だからこそ『行儀見習い』が必要なのだろうとは恐らく、クロスステッチの魔女は気づいていないようだった。普通の《ドール》であれば、そもそもそのようなことは必要ない。そのうち色々なことに詳しくなれば、彼女もそれが普通でないことに気づくだろう。イヴェットがいい子だった、というのは単なる運の問題だ。


「あんたは妙な物事を引き寄せる星周りに生まれてると占ったけれど、本当に片っ端から変なことに巻き込まれていくわねぇ……ほら、手を休めない」


「でも、楽しいですよ。魔法はもっとうまくなりたいですけど、なんだかんだと言って色々な勉強になることも多いですし」


「四等級でメルチを抱え込んだ魔女も、他にはいないだろうねぇ。あの子から連絡がないってことは、占いの通りに道が開けて人間として生きていけてるようだけれど」


 魔女の才能と、魔女に向いているかという二つを、この弟子はよく備えていた。けれど、いつまでそれを維持できるか。本当なら、もっとずっと手元に置いておきたかった。この子の美意識を固めて、揺らがないようにしてから独り立ちをさせたかった。でも、あまりに不健全だからと独り立ちを許したのだ。

 こうも色々巻き込まれていると、やっぱり許すべきじゃなかったかと思うことはあるけれど。楽しそうにしている彼女を見ていると、許してよかったとも思ってしまうのであった。

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