第222話 クロスステッチの魔女、虹色の核のことを聞く
お師匠様の家に着くと、変わらずイースとステューが迎え入れてくれた。
「今度は何をやっちゃったんです?」
「むしろ、今回は褒められたのよ。捨てられていた《ドール》を見つけたの。《天秤の魔女》様が、持ち主が現れなかったらうちの子にしていいって」
イースが出してくれた、魔法で冷やした冷たい紅茶を飲む。夏の空気の中を飛んできた私の喉と体を心地よく冷やしていく感触を味わいながら、再会を喜んでる《ドール》達の様子を見ていた。
「それは紅茶ですね? うわぁ、ひんやりしてる!」
「紅茶を普通の手順で淹れた後に、魔女様の魔法で冷やしてあるんです。この土のカップは魔法の力で、暖かいものは暖かく、冷たいものは冷たいままなんですよ」
「僕もマスターに淹れてあげたいです」
そんな会話の様子を見ていると、お師匠様も冷たい紅茶を一気に煽った後で「さ、やるわよ」と言ってきた。
「そうですね。ルイス、今日はお師匠様が全身おかしなところがないか見てくれるんですって。こちらにいらっしゃいな」
「はい、マスター」
イースに一礼して素直に私のところに来てくれたルイスを抱き上げ、作業机の上に寝かせる。核を示せ、と呟くと、ルイスの瞼が閉じられて青い光が胸に生まれた。この子の魂でもある、悲しみの青核だ。
『偽りを剥がせ』
お師匠様がそう言うと、薄皮を剥ぐようにして核の本来の姿が現れた。その名は、虹核。人一人を魔法に焚べて生まれた、あらゆる感情を内包する魂そのもの。……すなわち、禁忌。
お師匠様はルイスが虹核だと、あの裁判の前から疑っていたらしい。《名前消し》でかつての己を忘れたにしては、喜怒哀楽があまりにもすべてはっきりしているから。ちなみに作れますか、と試しに聞いてみたら、物凄く叱られた。そもそも今は、感情の一部を抽出する技術しか伝わっていないのだそうだ。
「……好きが高じて《ドール》を作ったり直したりをする魔女に、昔の禁忌として教えはするけどね。どう頑張っても、今の魔法では虹核は作れないんだよ。かつての虹核達は一介の魔女が望んで見られるようなものではなくなっているから、ルイスがそうだと知られたら、《ドール》作りでなり振り構わないような魔女に狙われるかもしれない。それもあって、口止めされてるんだよ。……よく覚えておおき、半分はお前を守るためなんだよ」
「今、他の虹核達はどうしてるんです?」
「大体は、魔女と運命を共にして眠りについた。ターリア様のところの《ドール》に虹核がいるっていう噂はあるけど、それこそ一介の魔女が核を見せてもらえるような相手ではないからね……さ、メモの用意をおし。色々教えることがあるから」
話はそこで打ち切られて、私は慌てて書き物の用意をした。