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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
10章 クロスステッチの魔女、夏
206/1021

第206話 クロスステッチの魔女、隠し事をする

「……クロスステッチの魔女? どうしたの?」


 ふと気づくと、グレイシアお姉様の顔が間近にあった。一瞬、白昼夢か何かを見ていたらしい。少し頭を巡らせれば、変わらぬ《魔女の夜市》の風景と、“早く飛ぶ翼”、“三番目の雛”の姿がある。


「ご、ごめんなさい、なんだかちょっとぼーっとしていたみたいで……」


 私は咄嗟に、誤魔化してしまった。夜市から帰らされては嫌だったし、三人の顔を曇らせたくはない。


「嘘おっしゃい、何か売りつけられたでしょう」


 とはいえ、すぐに看破されてしまった。お姉様に頬をつままれて、降参の証に頭の上で手をひらひらさせる。お姉様には通じなかったようだけれど、“早く飛ぶ翼”が「降参らしい」と言ってくれた。


「その、さっき……」


 一瞬の白昼夢だと思われる内容を話すと、「ああ……」とお姉様はため息をついた。


「《夢の物売り婆》に会ったのね。売られる品物は大体がお祭り特有の、次の日には効果の失せるような小物ばかりよ。それで若い魔女をからかうのが好きな、性悪の婆様だから……」


 私も昔、売り付けられたわ。どこか遠くを思い返すような顔で、お姉様はそう言った。


「あなたが何に引っ掛かったかは知らないけど、気にしすぎないことね。ほら、あそこは《ドール》の服を売ってるお店よ。見に行かないの?」


「行きます! “早く飛ぶ翼”と“三番目の雛”は、来ますか?」


 二人は《ドール》を持っていない。というより、お裁縫で魔法を使わない《外れ者》達は《ドール》を持つ必要がないのだ。だから、持っていないことの方が多いと聞く。


「見てみたい」


「なら、ついてお行き。外で待ってるから」


 “早く飛ぶ翼”は外で待つと言って、“三番目の雛”は私とついてくることになった。


「《ドール》、持ってないんでしょう? その……見ても楽しめるかは、」


「“糸の女”達の魔法は派手でキラキラしているのが特徴で、あまり好きな方ではない。だが、あの細かい手技には敬意を払うべきだ。そもそも人形の服に使うような小さなボタンなんて、どうやって作るものか想像もつかない」


 なるほど、《ドール》がなくても服を見るのは楽しめるのかもしれない。ボタンの作り方は私もわからないけれど、とにかくそう言ってくれるなら、と私は彼女を連れて魔女が多く集まる露店に近づいた。

 少年用、少女用、青年用、淑女用、もっと小さなもの……色とりどりの小さな布でできた服が、私の目を楽しませて迎えてくれた。すぐに、あの不可思議な婆様のことは意識から消えていった。

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