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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
10章 クロスステッチの魔女、夏
204/1022

第204話 クロスステッチの魔女、楽しくお買い物をする

 《魔女の夜市》には、沢山の魔女達が集まっている。色とりどりな装いに、煌びやかな装飾品。大小さまざまな石の輝きに、薬草や花のいい匂い。それらでいっぱいの《魔女の夜市》は、楽しい混沌に満ちていた。


「グレイシアお姉様! 見てください、かわいいリボンです!」


「あんまり早くに買い込み過ぎると、後悔することになるわよー」


「“早く飛ぶ翼”、この薬草の束を買いたい」


「これは染色用の葉だから、薬草とは別だ。それでもよければ買うといい」


 私や“三番目の雛”が店のひとつひとつで足を止めては眺めている姿を、グレイシアお姉様と“早く飛ぶ翼”は暖かい目で眺めていた。ついはしゃいでしまっているけど、私も人間だったら“早く飛ぶ翼”のような姿になっている頃合いだというのに、つい若い娘みたいになってしまった。恥ずかしい。

 小さな店の一つでまた足が止まる。そこは店主の魔女が採取してきた素材が色々と陳列してあって、私にも“三番目の雛”にも気になるものがあった。


「あ、綺麗な羽がある。“早く飛ぶ翼”、これ、外套に欲しい」


「ふむ……これならいいかもしれないね。ひとつおくれ」


 艶やかな羽も買っていく二人の横で、私は綺麗な小石をいくつか選んで眺めていた。川で拾った宝石らしく、何の石かはわからないけどキラキラと光っていた。半透明の緑色の中に、小さな光が火花のように踊っている。


「その石は《妖精の寝床》だよ。妖精が気に入って石の中に宿っているから、中がこんなにキラキラ光っているんだ。安くするよ」


「くださいな!」


「またよくわからないものを買って……」


 値札に書いてあったお金を払って、綺麗な石を受け取る。「ほら見て」とカバンから顔を出していたルイスやアワユキにも見せると、「綺麗ですねえ」とルイスが感心していた。


「ルイス、ちょっとこの石持っててくれる?」


「はい、わかりました」


 カバンの中でほんわりと光る石をルイスの手に持たせてやると、暗く閉じた場所が苦手なルイスがほっとした顔になった。それだけでも、いいものを買えた気分になる。


「はー……楽しいわね、ここ!」


「面白い。“羽の女”達の集会はあるけれど、ここまで大きく華やかなものではないからな。“糸の女”達は数が多いから、集会ひとつやっても大掛かりになるな」


 “三番目の雛”が感心したように周囲を見回しながらそう言う。そうでしょうそうでしょう、と、私は一参加者だというのに何故か誇らしくなってしまった。


「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、かわいいお嬢さん達、あなたのお役に立つものがあるよォ――」


 また誰かの呼び込みの声が耳に入る。ついつい、そっちにもつられてしまった。

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