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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
9章 クロスステッチの魔女と魔女の掟

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第197話 クロスステッチの魔女、もう一度忠告を受ける

 グレイシアお姉様は、素材の処理もあって早々に帰ることになった。お姉様が持っているのは《容積拡大》《保存》の二つの魔法がかかっているという鞄とはいえ、大きさから見ても恐らく《保存》は過信していいものではいだろう。だから帰って、グレイシアお姉様の家にある魔法を使って保管するのだろう。


「クロスステッチの魔女。私は帰るけど、その前に」


「はい、グレイシアお姉様」


 改まった様子で、お姉様が私を見る。その視線に、私の口が少し開きかけた。口にしようとしたのだ、話を聞いてしまったと。私が二人目だと、知っていると。でも、お姉様の生真面目な顔を見ていると、なんだか言いづらかった。お姉様の方も、何かを言いかけて言葉を考えているとわかってしまったから。


「まだ、例の魔女は捕まっていないわ。だから、しばらく家に籠ってなさい。外に出てはだめ。目をつけられるようなこともしてはだめ。やることがないなら課題と資材と食べ物を置いていくから、とにかく家に籠っていて」


「そんなにですか……?」


 私の肩に痛みが走る。グレイシアお姉様の指が、私の肩に食い込みそうになっているのだろう。恐らくお姉様は、いつも通りの顔をしているつもりのようだった。けれど、できていない。その目には、濃い不安の色がある。


「そんなによ。《裁縫鋏》の女たちの言葉は、心と価値観を汚染する。未熟な魔女は、自分の美しさを壊されてあいつらの仲間にされる。……だから、そういう奴に遭ったら口を利かないで。絶対に、絶対によ」


 そんな顔をされては、私が二人目だと聞いた話は言えなかった。それに、すでに《ターリアのくびき》を施された女と多少会話してしまっていることも。口にしてしまったら、お姉様を傷つけてしまうと思った。思ってしまった。


「わかりました、お姉様。えぇと……外に出てよくなったら、ちゃんと言いに来てくれますか?」


「ああ、それはいいわね。そしたら、外にお茶に誘いに来ることにしましょうか。その時までに……そうね、お茶会のマナーをおさらいしておいて。また指を曲げてカップを持ったりしちゃだめよ」


「もうちゃんと持てますよ!」


 そんな話をしながら、なるべくいつものような話へ話題を移していく。お茶会の約束の時に、お菓子作りを練習していい茶菓子を用意する話になってしまった。後で、小麦粉や卵や牛乳を送ってくれるそうだ。《扉》の魔法って、そんな使い方をしていいものではない気がするけれど。


「……じゃあまたね、クロスステッチの魔女」


 しばらく話してからそう言って帰っていったグレイシアお姉様の顔が、いつものように戻っていてとても安心した。

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