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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
9章 クロスステッチの魔女と魔女の掟
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第196話 クロスステッチの魔女、コスモオーラの《ドール》を返す

「早くドラゴン素材も扱えるように精進なさい、使えるようになった時に余ってたら分けてあげるから」


「またグレイシアお姉様からの貸しが増えました……」


 苦笑気味にそんなことを言いながら、私はいったん広げた素材を片付けるお姉様を見ていた。貸しと約束が好きなお姉様は、ひとつ叶えたと思ったら次を絡めてくるお人なのだ。


『二人目の《クロスステッチの魔女》、今度こそ堕とさないようになさい』


 あの声が耳に蘇る。私が盗み聞きしてしまっただなんて、きっとお育ちもいいお姉様は夢にも思わないだろう。

 二人目、今度こそ、という言葉からして、私の前の『クロスステッチの魔女』が良い現状にあるとはまったく思えない。だから、なのだろうか。だからきっと、お姉様は未来の約束を私にしたがるのだろうか。

 私が堕ちないように。約束を枷と鎖にして。


「下の子によくするのは、姉の当然の勤めだもの。イヴェットは……本当に状態のいい子なのね。おかしなことはなかった?」


「いえ、何も……強いて言うなら、よく眠る子でした。朝は一番最後に起きて、お昼寝して、夜も一番最初に寝てましたね。まだ不安定だからでしょうか? ルイスやアワユキには、そんなこと起きなかったんですが」


 二人ともよく寝るかといえばそうでもなく、ルイスは私より早く目覚めてることがあるくらいだった。前まではそういう日はこちらをじっと見てるだけとかだったけど、実は変わっている。ルーク先生から剣をもらってから、そういう時にルイスは素振りをしていることがあった。何かあったら嫌だから、遠くに行かないようにとは言ってあるけど。


「ふーん……? 観察日記は?」


「こちらに」


「字が上手くなったわね。これからもこの調子で書いていきなさい」


 ちゃんと書けてると言われて、少しホッとした。お姉様は綺麗な字を書くのと礼儀作法にはうるさいから、書き直しを言われるかもしれないと少しだけ思っていたのだ。字が上手くなったと認めてくれるなら、とても嬉しい。


「イヴェット、あなたのお母様が戻るまで、後はうちで過ごしてもらうわ。クロスステッチの魔女はよくしてくれた?」


「はい、良い魔女だと思われます」


 グレイシアお姉様の問いにそう応えながら、立ち上がったイヴェットがお姉様に近づく。アワユキが「イヴェット行っちゃうの?」と聞くから、「そうよ、元々その約束だったからね」と応えた。少し寂しいけど、仕方ない。


「また会えたら嬉しいと、イヴェットのお母様によろしくお伝えください」


 私の横で、ルイスが小さくイヴェットに手を振っていた。

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