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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
9章 クロスステッチの魔女と魔女の掟
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第192話 クロスステッチの魔女、禁忌の魔法を語る

 《ドール》達に対して物語を読んでやりながら、私はお師匠様から習った魔女の歴史……ターリア様以前の《古い魔女》の時代に思いを馳せる。当時の魔女達は旗印を持たず纏まらず、師弟関係以外に繋がりを持たなかったと言う。小さな国を守るため、という目的は同じでも、魔法使い達は膝を突き合わせて話すことはしていないようだった。それもそうだ、魔法の開示は秘密の開示なのだから。私も魔法をかけてあげることはあっても、魔法そのものを教えたことはあまりない。メルチにだって、本物の弟子ではないから魔法はほとんど教えなかった。グレイシアお姉様が図案(まほう)を教えてくれているのは、姉妹弟子として繋がっているからだ。


「……魔法使いの一人は、小さな国を守るために、禁忌の魔法に手を伸ばしました。小さな国は、魔法の師以外で初めて、魔法使いを入れてくれた場所だったからです。

 それからしばらく経って、町から時折、人が消えました。消えた人は一晩探し回っても見つからず、次の日には確かに探したはずの場所から現れました。見つかった人々は皆、何かをなくしていたことがすぐにわかりました。

 髪を切られた娘、子どもの歯を抜かれた少年、血を抜かれた男、泣けなくなった女……欠けた者が増えるにつれて、街に不安が満ちました。一番長生きで賢い魔法使いも、すぐには何が起きてるか気づけませんでした。否、もしかしたら、小さな国を守るためにと黙認したのこもしれません。今となっては遠い昔のこと、何が正しいかはわかりません」


 今の魔法では許されないことだ。人を傷つけることは重罪だし、血や歯から作られるような魔法なんてものは強すぎて制御が難しい。禁じられる前は確かに強い力は得られるとして、いくつもの悲劇を生んだとされているけれど……どうやら、この物語でもそうだったようだ。


「ねーねー主様、クニってなーに?」


「うーん……住んでるところとか、帰るところ、かしら」


「そっかー」


 アワユキは大雑把極まりない説明でも納得できたらしい。国というものへの帰属意識はないままに生きてきたのが私だし、大体の魔女も魔女になったら気にしなくなる。この物語の魔法使い達にとって、小さな国はそれだけ大切な場所だっただろう。術者にも危険な禁忌魔法に手を出してまで、守ろうとするほど。


「……人の命と体を使った、禁忌の守りの魔法が積み上げられました。それらは少しずつ国中に染み渡り、大きな国という外側の脅威だけでなく、内側からの脅威に、不安と恐怖が増していきました。それがある日突然弾けて、悲劇が起きたの……で、す」


 そこで私は言葉を止めた。何が起きたのか、具体的には書かれていなかったからだ。

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