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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
9章 クロスステッチの魔女と魔女の掟
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第186話 クロスステッチの魔女、みんなに魔法を作る

 糸車のスピンドルいっぱいに糸を紡いだところで顔を上げてみると、前より作業が早くできるようになったのか、まだ夕暮れには少し早い時間だった。


「マスター、糸、いっぱいになりましたね」


「ぷくぷくのぽんぽこりんなのー!」


「これ以上紡ぐならスピンドルを取り替えるべきではないでしょうか?」


 三人の言葉に「そうね」と言って、私は端の始末をして糸紡ぎを終えることにした。染めたりする作業は、また後日やることにする。使う魔法によって色々な染めをすることになるから、準備も膨大なのだ。どれだけ染めた糸が必要なのかもまちまちだから、日を改めて腰を据えてやるべきことになる。


「この間のこともあったし、護りの魔法も用意しないとね」


 私はそう言いながら、裁縫箱の蓋を開いた。針山に糸切り鋏、布切り鋏……そろそろお手入れが必要そうだから、明日は針休めにしよう。資材部屋から必要なリボンと糸、石を出してきて、机の上に並べる。それから、もらった図案も。

 《ドール》達の腰に巻いたりするには少し太い、瑠璃石の粉で青く染まった魔綿のリボン。ここで瑠璃星石や魔絹を出せないのが、私の財布の限界でもあるのだけれど。《ドール》達を一人一人呼んで、必要なリボンの長さを結んでみて決めてから截断。銀鈴蘭で染めた銀色の糸を使い、時折石を縫い込みつつ連続するモチーフを刺していった。


「刺繍の一門は、準備するものが多くて大変そうですね」


「確かにそうかもしれないけれど、そこはまあ、そういうものだしね」


 おそらく、イヴェットを作った魔女は違う一門の出身なのだろう。魔女試験の会場で出会ったというのであれば、《外れ者》ではなく裁縫の魔女のはず。細工や編み物や糸紡ぎなどの魔女であれば、私達のように布と糸のふたつを用意する必要はなかった。細工一門はあれで色々と物入りなようだから、編み物か糸紡ぎの一門なのかもしれない。

 そんなことを考えている間に、リボン一本分が仕上がる。一番細くて短いそれをアワユキの首元に巻いてやると、くるくる回って喜びを表現しつつ「わーいわーい!」と歓声を上げてくれた。大したことはしていないのに。


「二人にも作ってあげる。イヴェットも、あなたのお母さんの魔法の方が強いと思うけど、一応ね」


 それを聞いたルイスが、待ちきれないという様子で私の手元をじっと見つめてくるのは少し恥ずかしかった。慣れたつもりでも、照れは完全には消えない。ルイスの分も刺し終えたら日が落ちていたけど、楽しくなってきた私は魔法の明かりをつけてイヴェットの分も作ってしまうことにした。二人には、今着ている服にも似合うだろう。


「できたー! さ、二人ともつけてつけて」


 リボンを巻かせてみると、やっぱりよく似合う。これだから、《ドール》を着飾らせるのは楽しいのだ。

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