第161話 先生《ドール》、護るための教えを伝える
「剣、ありがとうございます。これで、マスターを護れます」
おれの弟子となった、主君の妹弟子の《ドール》。ルイスという頭ひとつ背の低い少年型の彼は、おれの後ろをひよこのようについて来ながら何度もお礼を言ってきた。おかげで玄関ホールに来るまでにすれ違った同僚全員から、微笑ましいものを見る目で見られている。恥ずかしいような、照れ臭いような。
《ドール》であるおれ達には、どこかの人間の心のカケラが使われている。だから、元の人間の癖や嗜好、技能を引き継ぐことはよくあることだった。おれの剣は《追加玉》で記憶させられたものだけれど、変わり種の武器を使う奴らは大抵が元々知っていた武器だ。使っていた実感から選ぶと、主君が今のおれ達に合ったサイズのものを用意してくれる。後はその武器を手に馴染むまで、あるいは思い出せるまで屋敷で振って訓練するのだ。
「ルイス、おれ達のような《ドール》が戦う時に気をつけるべき優先順位は覚えてるか?」
「はい! マスターの身の安全が最優先で、次にマスターの採ろうとしてる物、ですよね」
「採取の護衛の時はそうだな。だけど、落第」
前にしっかり教えたはずなんだけどなー、と揶揄うように言うと、ルイスは必死に考え込み始めた。魔女様方の採取に同行している時、その採取物も守ろうとする行動そのものは間違いではない。それが沢山採れるわけではない素材などであれば、尚更だ。時として石くれ一つ、花一輪のために何日も旅をすることがあるから。でも、今回は違う。
「すみません、わかりません……」
雨に濡れた子犬のようにしょぼくれる教え子に、おれは笑って正解を告げる。
「お前自身も守れ。おれ達がそうそう壊れない不死に近い存在とはいえ、壊れないわけではない。特攻厳禁、自分自身があんまり壊されないように気をつけるんだ。どうしてかわかるか?」
そんな話をしながらも、おれはいつでも剣を抜けるようにしていて、外から異常が入り込まないか見張りも務める。主君の結界があるとはいえ、油断は禁物だ。妹弟子にまた何かあったら、あの方が悲しまれるから。
「……いえ、わかりません」
「妹様……ルイスの主君の《ドール》は、今のところルイスだけだからだ。ぬいぐるみは連れておられたけど、あの子も戦えないだろう? ルイスが壊れたり深傷を負ったら、誰が二人を守るんだ」
あ、とルイスが呟く。やっとわかってくれたらしい。気をつけます、と言いながらルイスは腰に差した魔銀の剣の柄に触れた。
「ところで、どうして皆さん警戒してるんですか? 前に来た時より、随分と物々しいですが……」
「ルイス達を追いかけてた雲が、悪い魔女の物である可能性があるからな。もしこの家に押し込まれそうになった時や、雲が来た時の備えだ」
そうは説明したものの、まだ若いルイスにどこまで事情を話していいかは躊躇われた。