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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
8章 クロスステッチの魔女と春
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第159話 クロスステッチの魔女、魔法を出し抜く

『クロスステッチの魔女が雲の魔法を破るだなんて無理だし、その雲の目的が掴めない以上変なことはあまりしたくない。だから、出し抜いてしまうのが一番ね』


 グレイシアお姉様はそう言って、私に魔法を教えてくれた。すでに持っているものを組み合わせて使う、即席の《身代わり》魔法。《身の護り》と同じように、これからちゃんとしたものは持っておくべきかもしれない。

 前に雲から糸を紡いだことはあったけれど、あれは自然にできた雲だから可能だったことだ。しっかりと作られた目の前の雲に対して試そうにも、糸端になる部分さえ作れない。


『《針運び》をやって布地を滅茶苦茶にした前科もあるものね。だから手鏡と、すでに作ってる魔法を活用した手を教える』


「わかりました」


 教えられた通りに手鏡を取り出し、私自身を映しながら二つのリボンを結ぶ。まずは《身の護り》、続いて《浮遊》だ。ルイスとアワユキは、黙って見守っててくれている。


「お姉様、できました」


『よろしい。そしたら、その手鏡を雲に少しかする程度の位置へ投げる。手鏡は一時的に身代わりになってくれるから、その間にうちに来なさい。投げるのは得意でしょう?』


 距離をじりじりと詰められつつある今、それは外す方が難しい話だ。魔女としてはどうかと思うけれど、正直、私はこっちの方が得意だ。針をひとりでに動かして縫物をさせる《針運び》は全くうまくいかなかったけれど、投げる方は上手にできる。

 私の姿をよく映しながら、手鏡につけたリボン達に魔力を籠めた。鏡の中の私の、青い目が見返してくる。うん、綺麗な目をしていると自分でも思う。この美しさを写し取ってもらってから、ひとつ深呼吸をした。


「……よし、行くよ」


「頑張ってください、マスター!」


「頑張れー!」


 ルイスとアワユキに応援してもらって、ますますやる気がわいてくる。私は勢いをつけて、狙い通りに手鏡を投げた。雲の裾を踏んで飛んでいく手鏡の行く方へと、魔法の雲が移動していく。


「……今!」


 押し殺した声でそう言って、魔力を籠めて箒を加速させた。グレイシアお姉様の家への《引き寄せ》と《加速》のリボンを合わせて、箒と魔法が壊れるかもしれないと思いつつも飛ばして雲を振り切っていく。しばらく箒を飛ばして、足元の景色が山をひとつ越えてから、速度を緩めて後ろを振り返る。


「よかった、もう追いかけてこないみたい……」


「わあよかった! なんだったんですかね?」


「びゅんびゅん飛んでドキドキしたー!」


「じゃあ、ここからはゆっくり行くわよ」


 追加でつけたリボン達を外して、なるべく早く箒を飛ばしていく。しばらく飛んで、グレイシアお姉様の家が見えて来た時はほっと安心した。

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