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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
8章 クロスステッチの魔女と春
155/1023

第155話 クロスステッチの魔女、魔法糸を張り替える

「マスター、糸は採れました?」


「ええ、ルイスに使ってなお余る……というか、余裕があるくらいにね」


 歌いながら紡いでいる間に、糸巻は随分と太くなった。ついでに花びらをいくつか拾い集めて、ルイスの沐浴に入れたり香り袋にしようとも考える。チェリーの花を見ることは時々今までもしてきていたけれど、素材としては見たことがあまりなかった。どうなるのか、楽しみだ。


「じゃあ、早く僕の糸を替えて欲しいです! いい匂いの、マスターの糸、僕の中に欲しいです」


 糸巻がひとつ、限界まで糸を巻いたところだったので、早く早くと可愛くねだるから、もうここで替えてあげることにした。美しい花から紡いでいるからか、魔法の薬液に漬け込まなくてもそれなりにしっかりとした魔力がある。ついでに、他の部品の様子も見ることにした。


「むにゃ……主様たち、何かするのー?」


「今からルイスの中身の、魔法糸を張り替えるのよ。アワユキも見る?」


「見るー!」


 魔法糸の張り替えに使う鉤はカバンに入れっぱなしにしていたのを取り出して、ルイスを敷物の上に寝かせた。全部の服を脱がせ、魔法糸を外す。丁寧にきっちり縒り合された糸を見ていると、やはりこの糸は糸紡ぎの一門の魔女の仕事だろうなあと思えてきた。


「これを、新しい魔法糸に変えてやって……」


 新しい魔法糸を内部に張り巡らせていく。パーツにヒビが入っていないかを確かめてみると、新しい傷はないようだった。新しく右腕に彫られた刺青や、腰に前から入れられている刺青にも触れる。前からある方はなぜ彫られたのかわからないけれど、明らかに私の手に余るものであろうことを理解していた。

 魔法糸にパーツを繋げて、鉤で引っ掛けたりする作業をアワユキは興味津々といった顔で見ていた。銀色の髪を撫でてやって、髪にも少し魔力を流し込む。生活の間で傷んだ髪を補修するどころか、ついでに少し伸びてしまったけれど、これはこれで似合うだろうからいいだろう。ルイスに聞いてみて、長い髪がいいと言われたら……リボンを贈ってもいいかもしれない。

 生活の間に擦れて入った小さな傷を治していると、明らかなヒビが一か所、お腹にあるのを見つけた。ルイスと暮らしている間、この子がお腹をぶつけたようなことはないはずだ。これほど大きなヒビが入るような怪我なら、私が気づけないはずはない。けど、魔力を通して治す前に、私の手が触れただけで傷は消えていく。


「わあ、主様すごい! 兄様がピカピカになっちゃったー!」


「……そうね。さ、組み上げて起こしてやらないと」


 私はアワユキに話を合わせながら、残りの作業を進めた。

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