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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
8章 クロスステッチの魔女と春
153/1026

第153話 クロスステッチの魔女、花の糸を紡ぐ

 いつも持ち歩いているカバンから、小さな糸車を取り出す。せっかくだからたくさん紡ぎたくて、スピンドルにはしなかった。おもちゃのような糸車でも魔法が彫り込まれていて、今回のような繊維の塊ではない魔力のあるものから、魔法糸を引き出すのには向いている道具になる。足踏みをしなくとも、はずみ車をうまく回してやれば糸が取れる……のだけれど、元々糸車よりスピンドルの方に慣れていたから、前に買ったけどあまり使わなかった。でも、こういう時は役に立つだろう。

 導き糸の先端に、敷物へ降ってきたチェリーの花びらから引き出した魔力を縒って結びつける。今回引き出すのにはそれだけにしようかとおもっていたけれど、うっすらと出てきた霧を見てこれも縒り合わせ、導き糸に結び直した。はずみ車をゆっくり回して糸を紡ぐ私の唇から、自然と糸紡ぎの歌が零れる。


『唸れ、唸れや糸を巻け

白雪黒雲紡いで巻いて

若君様がお召しになるよな

柔い綺麗な糸になれ』


 ルイスとアワユキがすやすやと私の膝の上で眠っているから、その眠りを妨げるような姿勢には変えられない。幸い、はずみ車を回すのには支障がなく、私は薄いピンク色の糸を取り出すことに成功した。はずみ車が一度回る間に、小さな糸巻きは何度も回って、縒り合わせた糸で少しずつ太っていく。昔は麻や山羊の毛で紡いでたから固くて指に傷をよく拵えていたものだけれど、魔女になってからは逆に固くないものばかり糸にするようになっていた。痛くないからと楽しく糸車を回せるようにはなったものの、たまに物足りなくなる。痛みと冷たさがない、こんな楽しいだけの糸紡ぎへの罪悪感とでも称するべきだろうか。


「ん……マスター? 僕、寝ちゃってたんです?」


「ええ、そりゃあもうぐっすりと。まだ寝てていいのよ?」


 くしくしと小さい子のように目をこすって起きてきたルイスは、私の顔を見て安心したように笑った。アワユキがまだ眠っているのを微笑ましそうに見た後、「むしろ起きてよかったです」と呟く。


「夢を見た気がしたんですけど、全然覚えてなくて……でも、このまま眠っていたら悪夢になりそうな気がしたんです。マスターのお歌が聞こえて、それで無事に目を覚ませました」


 《ドール》も悪夢を見るのかしら、と思ったけれど、ルイスは普通の《ドール》とは違う子だと言う。だから、私は「じゃあ、ルイスの中に張る魔法糸を紡ぐのを見ていく?」と言ってルイスの気を逸らしてやることにした。

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