第142話 クロスステッチの魔女、宝石の魔女に引き合わされる
私を探していたという魔女は、見覚えのある人だった。グース糸の二等級魔女・ガブリエラ様……前に、鳥の羽を集める依頼をしてきた魔女。彼女に探される理由は、まったく心当たりがなかった。首を傾げている私の肩を彼女はがしっと掴み、もう片方の手がルイスの服を掴んでいる。
「今日来てくれただなんて、なんて運のいい! あなたの《ドール》の目を見せて欲しいの!」
「主様、この人誰です?」
「グース糸の魔女・ガブリエラ様よ。すごい魔女様で……ルイスの目? どうしたんです???」
あれよあれよと言う間に、どこかのテーブルに連れていかれる。そのテーブルには私の知らない魔女が一人、自分の《ドール》らしい子ガブリエラ様の《ドール》と一緒に座っていた。
「みーちゃん! 連れて来たよ!」
「なんか連れて来られました……?」
みーちゃん、と呼ばれた魔女は明らかに高級感のある服を着ていた。メルチが胡桃に入れて持ってきた、ドレスに似ている気がする。プラチナブロンドの長い髪をくるくると巻いていて、勝気そうな瞳の色はグレイシアお姉様に見せてもらった鳩の胸血色。着ている服も明らかに高そうで、糸そのものがキラキラと光っているあたりが特にメルチのドレスに似ていた。明らかに元お嬢様、といった風体をそのまま維持している魔女らしい。首にあるのは、二等級魔女の銀色の首飾り。高そうな宝石のついた髪飾りもつけていて、お揃いのものが彼女の《ドール》らしき少女型の頭にも輝いていた。
「えっと、私はクロスステッチの四等級魔女と申します。この子は、私の《ドール》のルイス。あと、こっちは《精霊人形》のアワユキといいます」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますー!」
みーちゃん様にも怪訝そうな顔をされてしまったので、助けを求めるようにちらりとガブリエラ様を見る。
「この子の《ドール》の目、見てごらん。綺麗でしょ? これを見せたかったの」
「……私は、宝石糸の二等級魔女ミルドレッド、この子は私の《ドール》のエマ。ガブとは同門の姉妹弟子なの。この子に巻き込まれたようでごめんなさいね」
やや憐れみを籠めた声で言われてしまった。「ちょっと見せてくれないかしら」と言われたので、ルイスに「行ってあげて」と促す。飛んでいくルイスの姿に「あら」と驚いたように言っていたミルドレッド様と彼女の《ドール》のエマが、ルイスの目をしげしげと眺めていた。
エマは赤い髪がストレートで、明るい黄緑の煌めく大きな瞳がとても目を惹いた。服装は伝統的な侍女服だけれど、よく見るとあちこちに刺繍やレースがついている。ルイスが二人に見つめられて、緊張した顔をしているのがわかった。困っている気配も伝わってくる。
「この目、片方は赤い硝子で、もう片方は……歯車を、何か透明なもので封入している? 確かに綺麗だわ」
「あ、ありがとうございます……エマちゃんの目も、とても綺麗ですね。きらきらしていて、宝石みたい」
私の言葉にぴくっと反応したエマが目をそらし、ガブリエラ様が叫ぶ。
「みたい、じゃなくて、本当にそうなのよ!!!」
大きな声が魔女組合に響いた。




