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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
8章 クロスステッチの魔女と春
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第136話 クロスステッチの魔女、ぬいぐるみに精霊を宿す

 アワユキの新しい体になるぬいぐるみは、もうほとんどすべての部品を取り付けられていた。穴から穴、胴体から手足へ、冬の空気と朝靄を紡いだ魔法糸を渡してある。ルイスと同じように、糸を伝って手足を動かせるはずだ。ルイスに入れてくれた魔女の、細く伸びやかな魔法糸と私のものは全然違う。私の糸は頑張ってみたものの、どうしても少し太かった。


「どうしたの、ルイス? 私の魔法糸をまじまじと見て」


「……僕もマスターの魔法糸が欲しいです」


 アワユキの部品と部品を繋ぎ、ひとつに束ねられた魔法糸を見ながらルイスは少し不機嫌そうに言った。ルイスの躰を動かす魔法糸は、《裁きの魔女》が入れてくれた上等なものだ。だけど、この子は私の不器用な糸がいいという。それがたまらなく嬉しくて、ルイスを抱き上げて「今度、春の光で作ってあげるわね」と約束した。


「まずは、アワユキの体を完成させないと。ルイス、アワユキを探してきてくれる?」


「はい、マスター」


 しばらくしてメルチに抱えられてやってきたアワユキは、やっぱり少し縮んでいた。《保護》のリボンがなければ、きっともっと小さくなっていただろう。溶けるか否かの瀬戸際を、私の魔法が留めていられたことに魔法の上達を感じていた。


『綺麗な体なのー! 魔力もあってふかふかで!』


 嬉しそうに耳を動かすアワユキに、私は脳裏によぎった古い呪句を歌うような節回しで唱える。今必要な言葉だと直感していたし、魔女の直感は信じるべきものだった。


《さぁ、こちらへおいでなさい。さぁさぁ、おいでなさい。冬の名残よ、雪まとう風よ。その体を抜けて、怖がらないで、その身を委ねて》


 雪兎にかけていたリボンを解くと、春の陽気で雪は溶けた。宿っていた精霊は積もりたての新雪のような青白い光となって、綿も全て入れて後はお腹を閉じるだけになったぬいぐるみに宿る。ぬいぐるみは青白い光にしばらく包まれて、それが収まる前に私はぬいぐるみのお腹を縫い閉じた。縫い目が表に見えないように縫い終わった糸は、真銀の刃が断ち切った。今日やったことはそれだけなのに、大きな魔法の刺繍を一気に作り上げた時のような疲労感。


「んー……主様?」


 しばらくもぞもぞと動いていたかと思うと、瞳に意思の色が宿った。アワユキが入ったのだ。手や足をぴくぴくと動かして、青空胡桃の特性もあって体がふわりと浮く。


「わぁ、アワユキ、かっこよくなった!」


「よかったですねアワユキ」


「流石はマスターです、これでアワユキもお空が飛べますね」


 すぐには制御が難しいらしく、天井まで飛び上がりかけたのを捕獲して、魔法のないリボンで私の手首と繋げる。


「姉様、この後は何を作るんですか?」


 アワユキの毛皮を撫でながらそう言うメルチではあったけれど、次は彼女との別れを済ませなくてはならなかった。

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