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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
8章 クロスステッチの魔女と春
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第134話 クロスステッチの魔女、ぬいぐるみを作る

 メルチが挽いてくれた、青空胡桃の実から摂れた沢山の綿。実1つ分をすべて挽いてもらった結果、大き目の麻袋2つ分の綿ができた。アワユキには袋半分も使わないから、残りは倉庫と呼んでいる部屋にしまっておく。引っ越してすぐの時はがらんとしていた素材倉庫も、少しずつ物が増えてきた。


「わ、マスター、袋、袋!」


「え? ……っと、もう浮いちゃうの!? 重石になる物、重石になる物……」


 青空胡桃の実を挽くと、綿になって食べられなくなる。そしてこれは、袋に詰めると空に焦がれてか浮き上がる特性がある。だからアワユキの中身に使おうとしていたのだけれど、まさか貯蔵用の麻袋に入れても浮くとは思わなかった。慌てて麻袋に紐をくくりつけ、水物を入れた重い瓶をしまってある棚の足にくくりつける。しばらく使う予定はないし浮かれても困るから、裁縫箱には入れなかった。この綿から糸を紡ぐこともできるというから、そのうちそっちにも使うかもしれない。


「姉様、粘り泡草を混ぜていたんですがこんな感じでいいですか?」


「それでいいわ、ありがとうメルチ」


 正式な魔女ではないメルチには、細かな下準備の中でもルイスに任せるには力の足りなさそうなものを任せていた。お師匠様には「少年型とはいえ《ドール》、その気になればそれくらいできるわよ」と言われていたけれど、これは役割分担というものである。弟子入りした当時に任せてもらえた作業と触らせてくれなかった素材があったことを思い出しながら、二人にも手伝ってもらっていた。

 流れの早い川で揉まれて育った、質のいい粘り泡草をすりおろして混ぜると優秀な接着剤になる。お料理の一環のような気分で、メルチはこういった作業を厭わずにやってくれていた。この姿を見て、どこかのお嬢様ないしお姫さまだとはだれも思わないだろう。手も、小さな傷痕がいつの間にかついていた。


「マスター、僕もお手伝いしたいです!」


「じゃあ……ここを抑えててくれる?」


 小さな部品は粘り泡草でくっつけることにしたので、ルイスにはその部品同士を抑えててもらう。その間に、私は粘り泡草の接着剤を使って革に開けた穴に瞳にする石を二つ、嵌め込んで接着する。アワユキが『凝った北風の欠片』と言っていた、紫色の綺麗な石だった。これが馴染んだ後は、薄紫の茸水晶を角にするためにまたくっつける必要がある。粘り泡草は放置しておくと固まるから接着剤になるのだけれど、だからこそすりおろしたものを今日中に使い切らなくてはいけなかった。しばらく抑えておいて、固まったことを少し触って確かめてから、茸水晶の角を取りつける。


(そういえば、茸水晶は魔力で育つといったわね……もしかしたら、アワユキの角もそのうち伸びるのかしら)


 雪竜を真似るためにも、角の先端は太陽実の汁で金色の染める予定だった。けれどこれは、茸水晶が青空胡桃の綿と魔女の砂糖菓子で育つかの検証にもなるだろう。ちょっと楽しみだった。


「姉様、暖炉の薪を一本抜いてもいいですか? 少し、暑いです……」


「いいわよ。……暖かくなって来たわね」


 少しずつ、春が近づいていた。

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