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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
7章 クロスステッチと魔女志願の乙女
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第128話 クロスステッチの魔女、自らの弟子の話をする

「さて、精霊人形のことはわかった。メルチのこととひっくるめて報告して、有耶無耶にしちまおうという魂胆も見えてるから特別課題を考えているからね」


「ひえ」


「メルチ、あんたもここにお座り」


 アワユキの話をしてる間、台所で夕飯の用意をしていたらしいメルチがお師匠様に呼び寄せられた。お師匠様の指先からひとりでに一本の刺繍されたリボンが離れたかと思うと、それは上等な布を張られた椅子に変わる。あれは確か、お師匠様の家の椅子だ。あの魔法が私にも使えるようになればどこでも椅子を持ち出して座れるのだけれど、まだ覚えられていない魔法のひとつ。仮に覚えたとしても、自分の持っている椅子が現れるだけだから、あんな上等な椅子は出てこないけどね。


「魔法ってなんでもできるんですね……」


「なんでもはできないわよ。事前に用意したものしかできないの。刺繍を刺すなり、編むなり、織るなり、しないといけないもの」


「ちなみにこれは《入れ替え》の魔法の応用でね。あたしが家に持ってる椅子とリボンの位置を入れ替えて、何もないところから椅子を出したのさ」


「《砂糖菓子作り》の魔法とは違うんですね」


そんなことを言いながら、彼女は慣れたように椅子に腰を下ろす。やっぱりその仕草は教育のされたもので、メルチは私のように意識していなくてもぴんと背を伸ばして座れるのだ。すごいよね、ふわふわした布と綿に腰を下ろしているのに。

 初めてこの椅子に座ったことを思い出しそうになった私に、お師匠様は「魔法を見せたのかい? それとも、使わせた?」と聞いていた。


「基礎の基礎としての説明と、《砂糖菓子作り》の魔法に魔力を通せるか試させました」


「お砂糖の粉が出てくるだけで、中々、姉様のように固まったお砂糖は出てこないんですよね……」


 恥ずかしそうにそう言うメルチだけれど、お師匠様は「まだ一年も修行していないのに、粉砂糖が出せるだけ上出来だよ」と優しく声をかける。


「あ、でも掃除洗濯料理に繕い物と一通り教えて、料理はとても上手になったんですよ、この子」


「性に合ってたみたいでして」


「マスターも、おいしいおいしいって食べてますものね」


 魔女として弟子入りしてすぐに、魔法に触れるわけではない。そもそも家事をする必要のない娘達であることが多い弟子達に、家事を仕込む必要があるからだ。掃除なんてしたことがない、料理もしたことがない、のままでは、魔女として独り立ちした時に事故を起こしやすい。お許しが出たら《砂糖菓子作り》の魔法から練習するが、最初は出せても粉砂糖でしかないのも予想の範囲。


「クロスステッチの魔女が粉砂糖出せるようになったの、うちに来て半年くらいだったかね。それ以来、料理をする度に自作の砂糖を入れてたから覚えてるよ」


 もちろん味を損なわない範囲でだけれど。お師匠様から見て、メルチは多少見込みがあると思われてたなら私も嬉しかった。

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