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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
7章 クロスステッチと魔女志願の乙女
115/1023

第115話 クロスステッチの魔女、魔法の注意点を話す

「《砂糖菓子作り》の魔法が一番簡単とはいえ、それは模様の刺し方の話。実際に魔法を発動させて、砂糖菓子を作り出す……の方になると、魔力を流すコツを掴めるようになるまでは難しいのよね」


 そう言いながら、私はメルチの作った刺繍に魔力を通す。ポコポコと布の上に現れたのは、指の爪ほどの大きさの砂糖菓子だった。青い色糸を使ったから、同じような青い色をしている。でも糸にビーズを入れたりはしていなかったので、味はほぼ変わらない普通の砂糖菓子だ。


「出来上がったものはそんなに大きくないから食べてしまえばいいし、保存も効くし、そういう意味でも練習には向いてるんだなって、教えながら思ったわ……火をつける魔法とかだと、何を燃やすかわかったものじゃないもの」


「姉様、これを食べてみてもいいですか?」


「いいわよ」


 見習いのうちは砂糖菓子を沢山作る練習をしたものだった。まともな形のものを出せるようになってからは、量を求められるようになった。毎日のお茶の時間には、見習いが作った砂糖菓子を紅茶に入れていたのだ。しっかりしたものを作ろうとして、いつまで経っても溶けない砂糖菓子を作ってしまったこともあった。


「魔女の砂糖菓子、って言われているものは前にも食べた覚えがありますが、また違った味ですね。色も、薄い桃色とかだったような……甘いだけじゃないから、魔女の、ってつくと思ってました」


「《砂糖菓子作り》の魔法は、魔女の基本にして原点。派生系を作ってる魔女も多いわ。色は使う糸の色次第。お手本の刺繍は姫蛍袋の花の糸なんだけど、こっちからは……ほら、桃色の砂糖菓子になったわ。味は一緒だけど」


 ただ魔法の図案をなぞるだけではなく、工夫をしてみたり、発展させるのも魔女のやることのひとつだと、お師匠様は言っていた。私に刺さるのは怖いから、まずはなるべく元のものを作れと言われているけれど。


「元ある形を創意工夫で変えて魔法の発展を目指す、というのは簡単なことではないから、メルチは例え砂糖菓子ができるようになっても、やっちゃダメだからね?」


「もしかして危ないんです?」


「危ないわよ。昔、ある魔女が《パン作り》の魔法の図案を発展させて、お粥を作ろうとしたんですって。そしたら……」


 昔、お師匠様に聞かされた話だ。メルチだけでなく、ルイスとアワユキも食いついてきてくれてる。


「そしたら?」


「何が起きたんですか、マスター?」


『教えて教えて!』


「そしたら魔法が暴走。お粥が鍋一杯どころか、部屋を埋め尽くし、危うく家までお粥に沈むところだったとか……」


 その話を聞いて、慣れるまでは変なことをしないと誓った当時のことを、昨日のように思い出すことができた。

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