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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
7章 クロスステッチと魔女志願の乙女
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第110話 クロスステッチの魔女、メルチの首飾りを作る

 私はお師匠様との話を終えて、メルチに身分保証のための首飾りを作ってやらなくてはならないことに思い至った。指定されている素材は、あまりない。一番必要なふたつを用意してしまえば、後は簡単に作れるものだ。


「メルチ、髪の毛を一本頂戴。今からあなたに、メルチをしてきた人間だと示す首飾りを作るわ」


 これがあれば追ってきた人間も手を出せない印になる、と言うと、彼女はその長くて美しい金髪を一本私にくれた。メルチを求めてくる人間はもうあまりいないらしいけれど、それでも、古く単純な護りの紋様には特別な力がある。

 私は自分の髪を一本抜いて、メルチの金髪と合わせて魔銀の針に通した。簡単な紋様だから、とお師匠様に習っていたけれど、実際に作るのは初めてだった。麻布の切れ端を丸く切り抜いて、その中心から放射状の模様を刺していく。メルチを求めた人間と、それを受けた魔女の髪を使って刺すことによって、彼女がメルチを求めてきた人間であることを私が保証する形になるのだ。一針一針刺していきながら、お師匠様も意味はわからないという、古いまじないの言葉を唱えていく。定められた長短の放射と、全体を囲むように描かれた六芒星。元々首飾りにするから、あまり大きい星にはならない。決まった紋様を刺し終えると、糸にしていた髪の毛が余ってしまった。が、もう一枚の麻布と袋状に仕立てて、口を縫い綴じることで切ることなく始末する。

 出来上がったそれを、魔綿と魔絹の二本を絡めた糸と結びつけ、簡易な首飾りにした。切れ目はなく、すっぽりと上から被る形のものだ。


「マスターも前、これをつけてたんですか?」


「私は普通に魔女見習いだったからね。これは特別なの」


 作り終わった私へのルイスの質問に答えながら、大人しく私の作業を見守っていたメルチを招き寄せた。彼女が神妙な面持ちで頭を垂れるのに対して、この首飾りをかけてやる時の言葉を述べる。


「汝、魔女に庇護求める者。時を超え美を探求する魔女と共に、人の世から離るるを望む者。汝、人の子に問う。汝は魔女の世に足を踏み入れるにあたって、髪を絡めたる魔女に従うか?」


「はい」


「ならば庇護の首飾り授けん。この二種の糸が切れるまで、二人はかりそめの師弟とならん」


 私は首飾りをメルチの首にかけてやると、彼女はほっと安堵のため息をついた。古い魔法の気配を感じたのか、仰々しい言い回しでの儀式に安堵を感じたのか。私はこういうのが苦手なのだけれど、彼女はそんなことがないようだった。


「では、これからよろしくお願いします……ええと、お師匠様?」


「……それはなんだか気恥ずかしいから、姉様で」

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