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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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1070/1072

第1070話 クロスステッチの魔女、家でくつろぐ

 家に帰って、買ったものを整理するだけで、それなりの時間になってしまった。これが人間なら自分で買ったものをすべて運ぶか、運んでもらうように手配をしなくてはならない。それを思うと、魔女になって格段と楽になったな、とありがたみを感じることができた。


「明日は焚き付け用の小枝拾いと、《庭》の手入れかなー……」


「主様ー、今年の雪は早そうだよー」


 横からそんなことを言われてしまっては、ますますちゃんとした支度をしなければ、と思ってしまうもの。アワユキは雪の精霊だから、その感覚は信用できた。


「災害の予告はないとはいえ、私が話を拾えてない可能性もあるから……やっぱり、しっかり備えておかないとね」


「あとはお水くらいかしら?」


「それは雪を溶かすか魔法を使えばいいから、水汲みはしないでいるつもり……あ、でも今残ってるのは明日捨てて、ちょっとは汲み直すか……まだ腐った臭いはしてないけど……」


 《浄化》の魔法があるとはいえ、しばらく放っていれば水も腐る。まだその感覚があるからか、なんとなく使いづらかった。明らかに腐った臭いはしていないから、本当に私の心の問題だと思う。


「でも、今日はもう日が落ちますよ。お休みになっていいかと」


「あんまり眠くないから、食べたら本でも読んで過ごすかな……」


 買った肉の一部を焼いて、簡単な夕食にした。お腹を満たして着替えたら、ベッドで寝転んで本を読むという禁断を楽しむ時間だ。


「アルミラ様に知られたら叱られますよ、間違いなく」


「わかってるわよ、だからみんな内緒にしててね」


 とはいえ、悪いだけのやり方ではないと思うのだ。重くないし、下が布と布団だから柔らかくて、鋲や表紙が傷む心配もしなくていい。


「こないだはここまでおさらいしたから、今日はここからね」


 四等級に許されている魔法の中でも、作っても使わないものや、作りすらしないものがいくつかある。明日あたりから、そういうものを作って試してみるのも悪くないだろう。《毛を伸ばす》とか、どんな用途で作られた魔法なんだろうか。


「キーラさま、今度はこんな魔法はいかがですか?」


「どれどれー」


 本のページをめくっていると、ラトウィッジがひとつの魔法に興味を持った。


「《芳香》の魔法? いい香りを作る魔法なんて、篭って暮らす冬にこそいいじゃない。どうして今まで気づかなかったのかしら」


 香りごとによって、魔法の紋様は少しずつ変わるらしい。明日は、これで遊ぼうと栞を挟んだ。

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