表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
7章 クロスステッチと魔女志願の乙女
107/1024

第107話 クロスステッチの魔女、駆け込まれる

 ドンドンドン、と無遠慮なノックは、風の音とは明らかに違っていた。ルイスが床に降りて木剣の柄に手を伸ばし、厳しい顔になる。アワユキは私の膝から降りて、自然とルイスの後ろに立った。私は二人に静かにするよう、唇に人差し指を当てる仕草をする。真冬の想定外の訪問者は、あまりいい結果をもたらさないことが多い。いくら困り果てた人間が魔女の元に駆け込んでくることがあるとしても、そういうのは私の元ではなく、お師匠様の元や隣人のエレインの元であることがほとんど。だからつい警戒してしまったのが、二人にも伝わったようだった。


「はい、どちら様で?」


 布の腕輪につけた《身の護り》の魔法の刺繍に魔力を通しながらドアを開けると、その向こうにいたのは毛むくじゃらの毛皮の塊だった。色も毛並みも様々な、多種多様な毛皮の塊。背丈は私より少し低い、奇妙な外套を着た人間だと一拍遅れて気が付いた。その目線が私の首にかけられた、魔女の証のペンダントに注がれた直後、若い娘の声が毛皮の塊から零れる。


「メルチ! メルチ、イヒラ、メル、ディ……」


「助けて欲しいんですか? 何をそんなに困ってるんです」


 ルイスがそう言って剣から手を離すのが、私は一瞬気になった。けれどそれよりも、私にメルチを叫んできた彼女をまずは家に入れる。


助け(メルチ)を求めてきたのなら、助けないといけないのが魔女の掟。さあ、中にお入りください」


 残念ながら魔法でなんでもできないので、私たちが飲むために沸かしていたティーポットに客用の綺麗なカップを出してきて、温かいお茶を淹れて彼女に差し出した。一緒に勧めた椅子に座った彼女は、その奇妙な毛皮に雪をたっぷりとつけている。


「その外套、脱いだら?」


 本当はとても内心で困っていた。メルチを求めてきた人間を、魔女は拒めない。それは古い、本当に古い掟だ。この女はそれを知っている。知っていて、私にそれを求めてきたのだ。

 彼女が外套を脱ぐと、純金のように美しい長い金髪が零れ落ちた。雪原のように白い肌と、若葉のような緑色の瞳。明らかに身分の高い娘だった。この間関わることになった、鵞鳥番になっていた姫君の姿を思い出す。彼女は元の身分に戻ったけれど、逆に彼女はその身分を捨てたいらしい。


「あの……本当に、助けてくれるんでしょうか、魔女様」


「魔女はメルチを拒めないもの。とはいえあなた、ちょっと失敗したわね。この森は確かに魔女が何人か住んでいるけれど、よりにもよって私にメルチを求めて来るだなんて」


 何があったの、と聞くと、彼女はぽつりぽつりと事情を話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ