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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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1062/1070

第1062話 クロスステッチの魔女、家の仕事をする

 家に着いた。扉を開けて、そう安堵した。魔法を使って維持していたから、あまり埃も溜まっていない。それでも家中の窓を開けて回って、まずは風を通した。前に精霊の力を借りた時には大変なことになったし、時間がないわけでも、早くやってしまわないと寒くて嫌になるほどの季節なわけでもない。今回は、風が家を通り過ぎていくのを待つことにした。

 その間に、暖炉の灰を旅立つ前の私が掻いていたことを確認してから、薪を入れて魔法で火をつけた。薪も、少なくなってきたから用意をしておかないといけない。食糧庫や倉庫も見て回ったけれど、結構蓄えが減っていた。


「完全に時間を止める魔法、まだ使えないからなあ……」


 お師匠様でさえ、完全に時間を止める魔法を部屋ひとつにかけるのは大変だと言っていた。作り方を間違えると、止めることはできたとしても、今度はそこから物の出し入れをしたりすることができなくなるらしい。昔、ある魔女が自分の宝物や素材を収める部屋に時間を完全に止める魔法をかけた。その結果、扉を開けることも難しくなったとか、魔女本人の時間も止まってしまったとか、そういう教訓話も聞かされている。私にできる《保存》の魔法は、あくまで「悪くなるのをとてもゆっくりにする」程度だ。新鮮な食材を新鮮なままひと冬保たせることはできたとしても、百年は保たせられない。巻き戻す魔法なんて、一等級でも使えるかどうか……私には、想像もつかない。


「カバンの分の食べ物、整理も兼ねて全部開けてしまって……ダメそうなやつは力技で何とかして、それから買い足し。糸類も布も足りないから、この辺も足しておいて……そんな感じかな」


 あれこれと整理をしていると、ふと、紅茶のいい匂いがしてきた。私はやってないから、誰かが暖炉の火で沸かしておいてくれたらしい。


「キーラさま、ひと息つかれませんか? お茶菓子は出せませんが、お茶なら淹れられますので……そろそろ必要かなと」


「あら、もうそんな時間なの? ラトウィッジ、ありがとうね」


「いえいえ……もう日も落ちました。秋は早いですね」


「あー、『秋の日は井戸の釣瓶』と言うだけあるわね。落ちるのが早いわ」


 確かに篭っていた倉庫から出ると、窓から見える景色はほとんど夜になっていた。木戸を閉めて、淹れてもらったお茶を飲む。


「明日はゴロゴロして、買い物は明後日とかに行こうかな」


「ゆっくりお休みください。木の葉が本格的に落ちる前には、お声がけします」


「お願いね」


 お茶を飲んで足を伸ばすと、帰って来られた感じがした。

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