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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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第1060話 クロスステッチの魔女、やりたいことを考える

 私はおいしいジャムをいただいたところで、家に帰る旅の続きをすることにした。箒に乗って街の門から飛び立ち、また、魔法の鳥が導く方向に向かって飛んでいく。色々と魔法を試したいという心はあったけれど、いったん家に帰ってからの方が、やっぱり素材はいくらでも出せるのだ。


「……そういえば、いつかやってみたい魔法があるのよね。噂だけだけれど」


「何かあるんですか?」


「私のカバンの魔法って、《容積拡大》でしょう? けれどこの世にはね、《空間接続》……《扉》の魔法の応用を使って、カバンの口と家の倉庫とかを繋げてしまう魔法があるらしいの」


「すごいねー?」


 アワユキの返事は、わかっているようないないような、曖昧なものだった。いかにそれがすごいことか、つい、力説してしまう。


「それが本当なら、《扉》とは全然違う理屈で同じ結果を作っていることになるのよ。だって《扉》の魔法——特定の扉と扉の魔法を繋げる魔法って、魔法で作った扉を本物の扉にすっごく似せないといけないの。それで、『似ているものは同じもの』の法則を使って、魔法として成立させているわけ。《虚ろ繋ぎの扉》は、その逆。どこにも繋がらない、どこにも同じものがない扉を作る必要があるのだけれど」


 だからどこにでも行ける扉として、《虚ろ繋ぎ》という名前を与えられているのだ。もちろん、どこかにある扉を特定して作る魔法より難しいし、苦労が待っている。それでも、いつかは使えるようになりたい憧れの魔法のひとつだった。お師匠様とか、《天秤の魔女》とか、使っている魔女を見ているとやっぱりかっこよく見えてくるし。


「それじゃあ、扉の姿をしていないけれど、扉と同じことをさせるのって……」


「難しいわよ」


「やれたらすごいねえ!」


「あの本に載っていたりするんでしょうか」


「難しい魔法は読ませてもらえないからなあ……頑張っていたら、そのうち本も教えてくれるのかも」


 とはいえ、《扉》の系統の魔法は、本当はひとつとして同じ魔法にはならない。細かな装飾の部分だとか、扉を再現する部分だとかは、作りたいもの・繋げたいものによってひとつひとつ、違うからだ。それを見つけることもまた、必要な素養であり、要するにその分の試行錯誤が必要になる。


「やれるようになりたいなあ」


「おうちに帰ったら、たっぷりお試しになってはいかがでしょうか」


「そうね、できる魔法をまずはひとつずつ増やしていきましょうか」


 私は昼の温かい空気と風を浴びながら、作りたいものについてぼんやり考えていた。

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