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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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第1058話 クロスステッチの魔女、小さい魔法を刺す

 不格好ながらもなんとか布を織り上げたところで、少し休憩をして。織りたてほやほやなのだから水通しも必要なさそうと思いながら、私はこの最初の布に《砂糖菓子作り》の魔法を刺すことにした。最初に習ったし、一番単純だし――暴発しても、体感としては《パン作り》の魔法より危なくない。気がする。


「とりあえず一番普通にやってみよう」


 いつも自分やルイス達のために作っているのと同じ、生成色で染めていない魔綿糸で魔法を作り始めた。刺繍としても、単純な図形に少々の装飾で出来上がるから、見習い魔女が最初に習う魔法になるのだ。何度も作っているとはいえ、いつもより魔法に使える面積はぐっと狭くなる。織り目と織り目の間もいつもより狭くなり、求められる技量は上がる。たかが《砂糖菓子作り》の魔法とはいえ、これに成功できなければ、他の魔法なんて作れない。念には念を入れて、もう随分と開いていない気がする《砂糖菓子作り》の魔法のページを開きもした。アワユキを重石がわりに乗せておく。


「ここにいればいいのー?」


「図案は隠さない程度に、本が閉じてしまわないように抑えてて。爪で引っ掻かないように気をつけてね」


「はあい」


 これは他の子だと、ヒトのカタチをしている分難しいと思ってアワユキを指名したのだけれど……正解すぎる人選な気がする。人選といか、ドール選? これからもやってもらおう。


「ひい、ふう、みぃ……よし、あってる」


 クロスステッチに特徴的なバツ印の数を数え、数を間違えずに刺せていることを確認してから次に移る。それを繰り返して、模様を刺し終えた。出来上がったものを満足して見つめ、糸を始末する。


「よし、一応みんな離れて……ティーポットと本はしまおう。それから念の為の魔法をいくつか出して」


 百万が一に備えてしまったり出したりをしてから、陶器製の皿の上に魔法を置き、ゆっくり、少しずつ、作った小さな魔法に魔力を通した。作った図形の大きさに相応の、小さな砂糖菓子が現れるまでを見守る。他に変なことも起きないことにほっとしてから、私はもう少し砂糖菓子を出そうと魔力の注入を続けた。


「あっ」


 一本取りの細い細い刺繍にしたからか、小さかったからか、魔力を流し過ぎたか、はたまた別の理由か。普段ならもう少し砂糖菓子は作れるから、と続けていた時に、突然、魔法が壊れる気配がした。《砂糖菓子作り》の魔法は、魔法を焼く金色の火を上げて燃える。


「あーっ!」


 布ごと魔法が燃え尽きた後には、五つの砂糖菓子だけが残っていた。

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