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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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第1057話 クロスステッチの魔女、早速織ってみる

 さっそく、小さな織り機を出して縦糸を張る。それから、どんな魔法がいいのかを探り始めた。私が使えるようになった魔法は、かなり増えた。それらの魔法の中で、手のひら程度の大きさで作ることができる魔法はどれか。使い勝手があるといい。


「お砂糖菓子や、パンを作るのはどうですか?」


「いつでもご飯食べれるようになるー!」


「なるほど、あの辺は本当に簡単な模様だしやってみましょうか」


 そういうことで、まずは糸を張る。魔法の素材を使うのは用途が限られてしまうし、まずは少し幅は広いが、素材としては普通の綿糸を縦糸と横糸にした。クロスステッチに必要な織り目の粗さを作るために、糸と糸の隙間に、何か小さいものを挟みたいんだけど……


「あれを確か、前にカバンに入れるだけ入れてそのままにしていたような……あ、あった」


 取り出したそれを、どこでもらったかは覚えていない。香りのいいチェリーの木を切って、それを色々と加工して細かい端材にしたものを、どこかの村でパンと交換でわけてもらったのだ。燻製を燻す時に、こういうものを使うといい匂いがして、楽しくなるから。それらを数本ごとに糸の上下に挟んで、机の上に置き、まずは横糸を一本、通してみる。


「……この調子でいけば、やれるかも?」


「よかったですね、キーラさま!」


 本来であれば、糸と糸の間には隙間なく、みっちりと織るのが正しい。クロスステッチ用の布を普段のように織るのはこの小ささだと難しいので、ひとまず、この形でやってみることにした。しばらく黙々と織っていく。やっぱり普通に織ればよかったかな、と何度か少し後悔しつつ、それでも織り機自体が小さいから、試す分には良くも悪くも少しで済んだ。これを家の織り機で試していたら、準備はまず、もっと大変になる。そして試したら、ある程度の大きさになるまで止めるに止まられなくて、結果が出るまでにももっと時間がかかっていただろう。

 横糸も数本織っては木片を挟む、というやり方を繰り返して、やっと織り上がった時には、夜もかなり更けていそうだった。


「お茶でも飲まれますか?」


「ええ……この大きさなら、ポットの下敷きになるわね」


 元々、ポットの下に敷いた魔法で温めたりすることはあった。ただ、ぴったりの大きさで作るには慣れと工夫が必要で、試してみてもできる時とできない時がある。熱すぎても、ぬるすぎても、お茶はおいしくならない。


「パンと砂糖菓子を試したら、次はポット用に作るわ」


 そんな決意表明をしながら、お茶が沸くまでに糸の始末をした。

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