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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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第1055話 クロスステッチの魔女、小さな織り機に悩む

 卓上機織り機、という名前がつけられているそれらは、やっぱりなかなかいいお値段をしていた。少なくとも私の金銭感覚では、思いつきでぽんと買えるほどではない。けれど、手のひらほどの織り機――多分本当は『機』ですらない――は、外でする一回分の食事くらいの値段で買える。


「これで本当に織れるのかしら……というか、この大きさの布は何に使うんだろう……」


 試しに使えるものがひとつ置いてあったので、付属の糸でちょっとだけ織ってみることにした。……ふむ。縦糸は板にくるくる巻きつけるようにして張っていて、その分、長く伸ばすようなことはできない。生成色の細い毛糸がピンと張られていて、同じ色の毛糸が横糸として置かれている。しかし試した魔女の私物なのか、指の関節一本ほど織られている布の中には、時折別の色の横糸が織り込まれていた。とはいえ縦糸で楽をする分、この手のひらほどの大きさの、板一枚分の大きさしか作れないらしい。横糸はシャトルではなく、刺繍針のように大きな穴に通した針を使っている。糸を渡せればいいから、当然、先端を触っても痛くなかった。卓上や踏み足式の機織り機と違って、縦糸は互い違いに傾いたりはしない。だから、そこは手動で拾ってやる必要がある。


「魔法とかで便利にできないんですかね? いっぱい織れるようにするとか」


「多分、この大きさに細かい魔法を入れるのは単純に難しいし、やったらとても高価なものになってしまうと思うの」


「なるほどー? 主様は、もし買ったら魔法かけたりするの?」


「そりゃあ、まあ、買った後なら使いやすいように魔法をかけても、誰も何も言わないからね」


 針を使って横糸を通す。前の織り目を見て、互い違いになるように通してから、小さな櫛を使ってそれまでの布につけた。仕組みとしては、多分、踏んだり歯車で調整するような、織り機もなかったくらい大昔の物が、きっとこうなのだろう。


「面白そうだけど……買ってもこんなに小さい布では、魔法がろくに刺さないし……」


「あるじさま、これ、本当に火をつけるだけとかの、単純な魔法に使えませんか?」


 キャロルの言葉に、私は棚の中に何個か置かれていた、縦糸いっぱいまで織りあげられて外された布の方を見た。縦糸の本数が決まっていて、かつ、魔法で伸ばすのも簡単ではなさそうな状況である以上、縦は変わらない。代わりに、横糸をもっと細いものにしたりして工夫して、少し隙間が空くようにして織れば刺繍ができるだろう。そうでないなら、後付け用の目の細かい抜き布を使えばいい。


「……なんとかできるかも」


 小さいものならできるのはすぐで、代わりに、その度に大きな布を小さく切って端の処理をする必要がある。それをこの大きさに最初からしてしまえるのは、有用な気がした。

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