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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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第1052話 クロスステッチの魔女、水袋を買う

「クロスステッチの三等級魔女キーラさん、受付にお越しください」


 魔法でそんな声が届いたため、私は後輩とは手を振って別れた。ちょうどいい依頼は見つけられなかったけれど、軽く今どんなものが出ているのか見られたのも、いい経験になったと思う。


「こちら、いい布ばかり出していただきましたので……これくらいでどうでしょうか」


「わぁ。是非お願いします!」


 提示された買取価格は、私が予想していたよりも上乗せされているものだった。お金稼ぎのために依頼を受けるつもりだったけれど、そこまで目くじら立てて探さなくてもいいかもしれない。……出してしまった分、自分が使う布は減ったから、その分は織らないといけないけれど。


「そうだ、《容積拡大》の一番大きい魔法がかかった、水袋が欲しいんです。《保温》もあるといいのだけれど……」


「この支部で売ってる中で一番大きいのは……ああ、あれですね。今持ってきますよ」


 売っているかだけを聞きたかったんだけれど、私が多めに布を持ってきたのもあるのだろうか。受付の魔女は、実際に水袋を持ってきてくれた。


「二重袋で、内側は鞣し山羊革製。外袋の部分の刺繡は《容積拡大》の最大で、飲み口の部分に《保温》の魔法つきです。中身の水は、一人用の浴槽近くまで入りますよ……おかげで、保温はできても保存の魔法はありませんからね。飲み水として使うなら、別途保存用の魔法か、浄化の魔法の用意があるといいです」


 飲み水用として使うと、入る量が多すぎて、飲みきる前に飲むには腐ったり悪くなるということらしい。確かにかけてある魔法が《容積拡大》と《保温》なら、水の保存期間が延びるわけではない。


「ちなみに、こういうので《保存》の魔法がついてるようなのって……」


「革細工系の魔女への個別依頼になると思います。そもそも魔法を三つもつけたものを依頼するとなると、大体これくらいしますが……」


 水袋ひとつに対して、冗談のような値段が提示された。確かにそうだ、と思い直して、そちらについては考えないことにする。第一、お風呂のお湯にするつもりなのだから、水の質はそこまで気にならない——多分、一度で使い切るし。


「洗い物とか、水浴びとか、染色用の水のために買っていかれる方が多いですよ」


「ひとつください」


 私と似たようなことをしている魔女は、他にも色々といるらしい。鮮やかな赤に染められた袋を、私はもらった買い取り金のある程度を使ってひとつ買った。

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