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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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1050/1070

第1050話 クロスステッチの魔女、依頼を見る

 魔女組合のその支部では、今、布をたくさん欲しがっているのだそうだ。そう言ったのは。受付の魔女だった。


「布、ですか?」


「ええ。一定の質の条件を満たしていれば、買取もしております。普段より色をつけて……これくらいで」


 普段より割高なお値段を提示されたので、やる気になった。とりあえず、カバンの中に持っている布を片っ端から広げていく。この間買ったばかりの押し布は……これは私が使いたいから残しておこう。他の布は、色々と魔法用にしまい込んでいるのだ。


「これと、これと、これと、これ! どうかしら」


「確認いたしますね」


 私が織った魔綿の布や、普通の綿の布、クロスステッチ用に織っていたわざと目を荒くした布が二種類。まだ染めてはいないし、沢山織っていたから、長さもある。それを丸ごと渡しても、あの値段で買い取ってくれるのなら惜しくはなかった。貴重なものなんて何も使っていないのだから、また織ればいいだけだ。


「見てもらってる間、依頼を見てきてもいい?」


「ええ、構いませんよ」


 そういうわけで、この支部に貼り出された依頼を色々と見ていくこととなった。魔物の素材を求めるものや、今回の布のように何かを作って欲しいというもの、魔物ではないけれど特定の素材が欲しい魔女。大半はこの辺りでは採れないもので、逆に近くで採れるものは四等級向けとされている。魔法を作って欲しいというのもあった。


「二等級魔女からの依頼が、《パン作り》の魔法……?」


「あ、あの人また出してる」


 私が手に取りかけた依頼を見て、同じように依頼を見ていた魔女の一人が声をかけてきた。首飾りの色は四等級()、まだ私より若いのが雰囲気でわかる魔女だ。


「その魔女様、一等級目指して大作を作ってるんですって。お金もほとんどその素材に注ぎ込んじゃっているし、住んでいるのも街からかなり外れているし、大作の方に魔力が使いたいからって、《パン作り》の魔法の依頼を出すそうです。彼女の《ドール》が。」


「ああー……」


 納得してしまった。やる人はやる。《ドール》に魔女の名代としての力も、ある程度はあった。生活力が特に薄いというか、忘れてしまいがちだと、いかな魔女とはいえ普通に餓える。なので、《ドール》が世話を焼くのはよく聞く話だった。大金を動かすのでなければ、《ドール》が魔女の名前で依頼を出すこともないわけではないらしい。最初はもう少し制限とかも考えられたそうだが、上位の魔女ほど雑事が減ることを歓迎して、今に至る。

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