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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり
105/1025

第105話 クロスステッチの魔女、箱庭を開く

 アワユキに使う素材に何がいいか、私は中々決められないでいた。全体をルイスがくれるという白い魔兎の革で覆うことは決まったものの、その中にただの魔綿を詰めるようでは芸がない。精霊が自らの身体にするようなぬいぐるみなのだ、もっとアワユキに相応しい凝った物が使いたかった。


「箱庭にいいのがなかったら、外に採りに行くわ。ちょっと箱庭を開けるから、二人とも私のそばにおいで」


 いい子のお返事をした二人を抱えて、私はお師匠様からいただいた年季の入った木の箱の模様をなぞる。それから開くと、家の床に私の箱庭が広がっていた。

 そっけない暗い木の板の上に植物が生い茂り、ひらりと飛ぶのは虹色の鱗粉の蝶だ。時々光っているのは、私の代わりに水をやってくれる魔法の噴水が噴き上げる水のカケラだ。それは箱庭の中に降り注いでいるけれど、家を濡らすことはない。箱庭の中にお師匠様が閉じ込めてくれた空間を家の中に広げてはいるが、影を投影しているようなものだから影響はない……と、言っておられたはずだ。確か。とにかく、家は濡れていない。


『わぁ、きれー!』


「綺麗ですねぇ、マスターのお庭」


 ルイスには何度か見せていたけれど、初めて箱庭を見るアワユキは嬉しそうに耳を揺らしていた。私が抱えてなかったから、そのまま飛び出していたかもしれない。


「この《箱庭》の魔法、私自身では庭を作る刺繍は教わっていなかったの。お師匠様が用意してくれたところに、私が色々植えたのよ。だから、何かあった時にすぐ解決できないかもしれないから、大人しくしててね」


『はぁい、主さま』


 ルイスもわかってると言いたげに私の服を掴んできた。かわいい。しかしいつまでもかわいいかわいいと言ってられないので、庭の手入れを始めることにした。


 魔銀のスコップに、魔兎革に刺繍入りの手袋、汚れてもいい麻織のエプロンといういつもの装備を身につける。ちなみにエプロンは、弟子入りしてすぐの頃に教わりながら作った品物だった。それまでなんとなく教わっていた『布で何かを作る』ということを、初めて技術として理解し自分の手で成した記念すべき一着である。


「マスター、今日は何かお目当てがあるんですか?」


「んー、お師匠様には目録を作れと言われてたけど、作れてなくてね……何をどれだけ植えたかも曖昧だし、噴水にそろそろ魔力を通し直したいし、今日は庭をうろうろするのが目的、みたいな? ああ、でもアワユキ、これを自分に使いたい!ってのが見つかったら教えてね」


 手入れ半分、アワユキに使える素材目当てが半分。そんな目標を立てながら、私は二人と箱庭の中を歩き始めた。

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