表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1048/1069

第1048話 クロスステッチの魔女、川魚の話をする

「マスター、お買い物こんなにして大丈夫ですか?」


 ルイスに何気なく聞かれたこと、そして日も落ちてきたことから、その日の街歩きは終わった。確かに、布や染め粉の他に石鹸だの、針だのも買っている。……魔銀では魔法同士が絡まり合って悪い効果を招くから、普通の鉄針を使わないといけない素材があると聞いたことを思い出したのもあって、つい買ってしまったのだ。もちろん鉄なので、魔銀の針を同じ本数買うよりは安かったけれど。


「……そろそろ宿に戻るわ」


 最初に客引きされた宿に戻ると、そこの売りだという川魚の包み焼きの夕食が食べられた。名物というだけあって、泥をしっかり吐かせてあって臭みがない。魚はすべて、これくらいおいしければもっと食べるのだけれど。


「どうやったら、こんなにしっかり泥を抜けるのかしら」


「おや魔女様、興味がおありで?」


「ええ。川の魚は大抵、どうしても少しくらいは泥の臭いがするものだから……それを覆い隠すのに香草とかで焼いているのかと思ったんだけど、少し違うわよね?」


 その言葉に頷いてやり方を教えてくれたのは、宿の下働きをしているという少年だった。

 本来、川魚の泥抜きは綺麗な水に魚を数日放し、悪いものを出させる。その間は餌をやらないので、綺麗になる代わりに肉は痩せるし、運が悪いと魚は締める前に死んでしまうけれど。泥が強いところに生きていたような魚だと、綺麗すぎる水の中では生きていけないらしい。そう思うと、どうしようもなく反省できないか真っ当に生きられない人を『泥の抜けない川魚』と言うのは、よく言ったものだ。


「泥抜きの時に綺麗な水に魚を放すのは変わらねぇんですが、他所より長い時間泳がせて、ウマの豆を茹でて潰したものを食わせてやります。他にも色々混ぜてるんすが、そこはそら、ウチの秘伝なもんで」


「ああ、ウマの豆ね。あれって東の方だと、自分たちで食べるそうよ」


「あれを……食べ……あんまり考えたくねえなあ!」


 いつかに会った刺し子刺繍の魔女は、あれが好きだと言って村で困っていた記憶がある。ウマの豆なんて、ウマを飼うことのほとんどないあの村では育てていなかったのだから。

 下働きの少年は「ウマも魚も腹下さないってことは、俺たちが喰っても平気なのかもしれねぇけどよぅ」と真面目に考えている。


「茹でたものを、潰したりなんだりして、色々に使うんですって。おかげで逆に、自分たちで食べてしまうから、ウマにはやらないんだとか」


「そりゃあ、東のウマは不幸なことで! あいつらみんな、あれが好きなのに」


 少年にはこの話が一番受けたようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ