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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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1034/1069

第1034話 クロスステッチの魔女、蜂を見つける

 家へ飛ぶ旅は、どこに寄るわけでもないから早々と着くはずだった。一日二日の距離ではないけれど、途中、温泉の出る村を訪ね歩く……飛ぶようなことは、もうしないのだから。野宿だって、気にする必要はない。多少夜が涼しくなって来ても、魔法を使えば寒くはない。


「このあたりは《箱庭》に植えたいほどのものはあまりないわね……あっ」


 小川で水袋に水を汲みながら、私は周囲の植物を見る。この辺りはちょっとしたマツの林になっているから、香りのいいキノコでもあるのかもしれない。ものすごくおいしいというわけではないが、少々の薬効を持った、マツの香りキノコが生えていることがある。マツがないから《箱庭》には、植えても育たないだろうけれど。

 私が気づいたのは、マツの葉にキラキラとついた特徴的な痕跡だった。琥珀蜂の巣があるらしい。探してみようか、と思う私と、蜂の移動距離を考えると遠くまで行くことになるかもしれない、という私の二人が葛藤する。


「琥珀蜂なら、魔力のあるものを好んで餌にするから《箱庭》でも飼えるのよね……」


 琥珀蜂専用の《箱庭》を用立てて、養蜂をしている魔女の話は聞いたことがあった。魔法で蜂の巣を《探し》てみて、蜂が許すなら巣を移し替えてもいいかもしれない。この辺りの植物の様子を軽く見た限りでは、蜜のある花を咲かせるものは随分と少なく思えた。もしかしたら、蜜になるかならないかはあまり気にせずに植えている今の《箱庭》でも飼われてくれるかもしれない。


(もしそうなったら、もう一つ《箱庭》を買って、そこに蜜をつける花を沢山植えて、蜂たちの自由にさせてあげよう)


 そんなことを考えながら、《探し》の魔法にこの痕跡を残した琥珀蜂のいる巣を探させることにした。ふわり、と蝶が出来上がり、ひらひらと西へ飛んでいこうとするのを、リボンで一回遠くに行きすぎないように捕まえた。


「蜂蜜が採れるようになったら、蜂蜜酒もたっぷりできるし、紅茶にだって好きなだけ入れられるし、パンにもつけられるわ。刺されると、痛いけれど」


「僕たちが頑張りますよ、マスター。多分刺されても平気ですから」


 蜂の飼い方についても、本を探せば書いてあるだろう。あとは、村で蜂飼いがやっている様子を見ていた時の記憶も私にはある。心強いことを言ってくれるルイスに頷き返しながら、私達は蜂の痕跡を追ってみることにした。それくらいの寄り道をしても、問題はないだけの時間はある。

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