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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
45章 クロスステッチの魔女、「家」に帰る

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第1033話 クロスステッチの魔女、帰り道を飛ぶ

「マスター、皆さん、こちらを見上げています」


「そうね。本当、『開かない賽壺が当たることはない』とは真理だわ」


 ルイスは、村が小さくなるまでそちらを見下ろしたりしていたようだった。私は、下を振り返ることはなかった。お別れは、ちゃんと言ったのだから。


「主様、楽しかった?」


「そうね、思ってたより楽しくてびっくりしたくらいよ」


 帰る場所があそこではないことを確かめるために、知人が生きているかもしれないうちに確認するための旅だと、そう思っていたはずなのに。


「嫌なことはされたし、みんなが優しくしてくれたわけではない。私があの村で、『村の子供』として他の子と……義兄さんとかと同じように扱われたことはなかった。それも、また事実。

 でも、それは私が思っていたようにみんなが私を嫌っていたのとは、少し違った。そういう話だったし、きっとそういうことは……魔女にならなかったら十年は前に、わかっていたことなのかもしれないわね」


 風に吹かれる。足元は空に遊び、魔女として箒で空を飛んでいる。これは、まだ、人間にはできないこと。だから、わかるのに余計に時間がかかってしまった。


「あるじさま、これからどうなさるの?」


「とりあえず、あの家に帰るわ。薪や保存食の用意もしたいし、お金も稼がないと」


 箒は太陽を見て、南へ飛び出させていた。このままだとうまく帰れるか自信がないので、《探し》の魔法で『私の家』を探させる。そうやって生まれた魔法の刺繍の鳥は、南を目指した。


「やっぱり、私の家はあそこね」


 箒に少し魔力を追加して、速度を上げる。来るまでののんびりとた旅路も悪くなかったけれど、私の家を確かめた今、早く帰りたくなったのだ。


「帰ったらまず、しばらく放っていた分の大掃除ですかね?」


「そうね、また、精霊に換気してもらわないと」


 今度はちゃんと風の量を調整する。薪は前のがあるけど、最低限の森の手入れになる程度は作る。具体的に言うと、立ち枯れた木の分くらいはもらう。やっぱり、薪がある方が魔法だけより火の持ちがいい。


「食糧品、うまいこと買えるといいんだけど。あの冬の後だったからなあ……」


 夏がそこまで暑くないように感じるのは、空の上だからか、北にいるからか、どれが原因かはわからない。とはいえ、そろそろ秋の方が近いから、こんなものなのかもしれなかった。


「いざとなったら、お師匠様に助けてもらうとか……?」


「それはあんまりやりたくないなあ、独り立ちしているんだし」


 そんな話をしながら、家に向かって飛んだ。

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