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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり
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第103話 クロスステッチの魔女、ぬいぐるみの素材を吟味する

 雪竜の姿を取りたい、とアワユキに乞われて、私は考え込んでしまった。雪竜は冬の訪れを告げるために現れ、彼らの姿を見た後は雪が降ると言われている竜。倒して素材を落とさせるだなんてことは私にはできないし、買おうにもかなり値が張るのは目に見えた存在だ。


「形そのものは……そこまで難しくない、と、思う」


 ふわふわの毛に覆われてはいるが長細く、四本の手足と一対の角を持っているのが図鑑の絵に描かれていた。頭の中で簡単に形を考えて、型紙を木の板に雰囲気で作ってみる。


「こんな感じにしてー……ここを縫い閉じたら作れる、はず」


 弟子入りして20年も修行していた間には刺繍以外を習うこともあって、そのひとつに型紙作りと縫い物があった。あの時は自分の服を作って着ていたものだけれど、お師匠様は「将来、あんたも自分の《ドール》に服を作ってやりたいと思った時はこうするんだよ」と教わったことは、ちゃんと覚えている。胸元のダーツの取り方なんかをうまく織り込めれば、ぬいぐるみを立体的に作ることもできるだろう。


『何で作るの〜?』


「そこだねぇ、何で作ろうか。普通の布じゃあつまらないものね」


 問題は素材だった。せっかくの精霊人形だ、拘った素材で作りたい。人形というよりぬいぐるみの姿を希望されてるのも、正直ありがたかった。《ドール》を『治す』ことは多少習っていたものの、『作る』のはさっぱりだからだ。


(あのお姉様は確か、今は《ドール》を作ってると聞いたし、教えてくれるかもだけど……)


 お姉様の作った子ではなくルイスを買ったと知られたら、なんで私の子にしなかったんだとごねられる未来もついでに見えた。嫌いな訳ではないけれど、自分のお金で自分で選んで買いたかったのだ。だから《夜市》のどこかにいるかもしれなかったお姉様を、あの時は探さなかった。そのこと自体には、後悔はない。


「このふわふわ、マスターがくれると仰ってた魔兎の革でできますか?」


 ルイスの言葉に我に帰る。確かにもうすぐ革になるあれは白くてふわふわで、似通ってはいる。けれど、あれはルイスの戦利品で、所有と加工の権利はルイスのものだ。


「でもあれは、ルイスの獲物よ? ルイスが好きにしていいものだし、あなたもそのつもりだったじゃない。外套も布団も、ぬいぐるみにある程度使ってしまうと難しいわよ?」


 私がそう言うと、ルイスはアワユキの雪兎の体を撫でて呟いた。


「だってアワユキがさっき、僕を兄様と呼んでくれたじゃないですか。なんだか僕、すごく、それが嬉しかったんです。だから、兄様らしいことがしたいなって」


 無理をしてないかと思って表情を見てみたけれど、顔も伝わる感情も、本心からそうしたいも思っているようだった。


『ルイス兄さまありがとー!』


「どういたしまして、アワユキ」


 二人の様子を見ながら、私は他の部分を何で作るか候補を書き出していた。

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