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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
44章 クロスステッチの魔女と彼女の故郷

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第1029話 クロスステッチの魔女、お師匠様に心配される

『どうだい、家に帰った感想は』


「《探し》の魔法は森の家を私の家だって言いましたが、それでも私の根は、ここだとわかりました。いい経験です」


 カバンを漁ってもお酒は切らしていたので、ルイスに魔法の火でお茶を淹れてもらった。お師匠様のように晩酌はできないけれど、似たような姿で話す。温かいお茶が、ほうっと体に力を抜かせた。


「あ、あとちゃんと、《生者の義務》も果たして来ましたよ! そんなことする日が来るとは、思ってませんでしたけど」


『《生者の義務》? 山の方の風習?』


 どうやら意外なことに、お師匠様は知らなかったらしい。私は簡単に、あの村で私がやってきたことを説明した。黒いののことも含めて。


『なるほど、山という特殊な環境ならではのもののようだね。こっちと違って人の行き来が限られがちだから、義務ということにしないといつまでも放っておかれてしまうわけだ。長く生きてたつもりだけど、勉強になる』


「どこでもやるものだと思っていました」


 とはいえ、よっぽどの辺境でもない限りは、山越えをする人よりは多くの人が行き交っているのだろう。それは、なんとなく肌感覚のようなもので理解ができた。


『……ずっとそこに留まる気?』


「まさか! 家もそちらにありますし、何より、私に村つきの魔女はまだ荷が重いです。近々帰りますよ。その前にヤギが飼えないかなーと、思ったんですが」


『びっくりしたよ、ヤギを《箱庭》で飼おうとする魔女は聞いたことない。ターリア様のタペストリーにだってないだろうよ』


 魔力のある草を食んだり、鉱物を舐めたりする魔法生物なら、あそこで飼い慣らせるらしい。魔物ほど魔が強くなってしまうと、まず魔女を襲ってくるから飼うどころの話ではなくなるそうだ。どうしても土も草も魔力を多分に含んでいるから、逆にごく普通の生き物には辛い環境になるらしい。


『ヤギが飼いたいなら、旅はしばらくなしになるよ。やってみたいのなら、本格的に魔女の時間感覚になる前だろうけれどね』


「……少し迷うことにします」


 確かに、うっかり数ヶ月をすっ飛ばすようでは生き物の世話などできないのだろう。《ドール》にすべてを丸投げするとしても限りがあるし、絶対に死なせてしまうのは察せた。ルイス達に任せたところで、小さい体で十全の世話をするのは魔法で飛べても難しいだろう。


『まあ、あんたの知り合いが生きているうちに戻れるなんて、もうこれっきりになるだろうよ。悔いのないように過ごしなさい』


「はぁい、お師匠様」


 それだけ言って、お師匠様の像は消えてしまった。

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