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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
44章 クロスステッチの魔女と彼女の故郷

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第1026話 クロスステッチの魔女、団子を完成させる

「そういえば、蒸釜は使わないのかい?」


 団子が焼けるのを待っている間、ラーニャにそう言われて私は「あー……」と声を漏らした。村には村の所有物として共同で使う、蒸し物をするための釜があった。家から蒸したい食材を持ってきて、温泉の中でもほぼ源泉が湧いている一角に用意された蒸し器に入れる。あとはしばらく放っておけば、温泉の蒸気でおいしい蒸し料理になるのだ。


「私、あれを使えるようになる前に村を出たんで、やったことないの」


「なんで……ああ」


 私が自分の腰程度の高さで水平に伸ばした手を見せると、ラーニャはそれで納得してくれた。《ドール》のみんながきょとんとしているので、一言言い添える。


「背丈が足りなくて使えなかったの。子供だったからね」


「子供が下手に扱うのは、危ない場所なんだよ。本人は気になるようだけれど、サーシャにもまだ行かせてない」


 源泉近くの高温の蒸気は大人でもしんどいものなので、子供なら辛く感じるのも当然のことだった。昔は何度か重い火傷を作るような事故もあり、今はそもそも、蒸釜を高い場所に作り直していた。私が物心ついた頃には、手の届かない場所で料理をしている大人の様子を見た覚えがある。義母さんもたまに使っていた。


「素直に、背が伸びるのを待ったほうがいいと思うわ。蒸釜……帰る前にちょっと、使いたくなってきた……」


「明日もおられるんなら、芋でもふかしてみるかい?」


「うん、そうしてみたい」


 芋団子が焼き上がるのを見守りながら、ラーニャと明日の約束をする。冬のことを考えると、明後日には帰るべきだろう。私も、私の家の備えをしておかないといけないし。


「おっ、焼けた焼けた」


 芋団子が懐かしく膨れて、焼き目がついた。膨れると言っても、大したものではない。単に小麦粉を水で練っているだけで、これにはパン種もなく、ふくらし粉だって入っていないのだ。そんなに大きくはならない。焼き目が焦げ目になる前に、炉端から回収する。


「うちの人も、きっと喜びます。ありがとう、魔女様」


「どういたしまして、と言うにはまだ早いわ……ちゃんとできてるかしら、これ」


「食べてもらって確かめましょ」


 山羊の世話を手伝っていたサーシャと、ヤマドリを落としてきた義兄さんがそれぞれ呼ばれている間、炉端の机の上に皿を広げて芋団子を並べる。

 三十年近くやっていなくても手は覚えていたが、果たして覚えている味の通りになったかと言うと、正直、少し自信がなかった。

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