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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
44章 クロスステッチの魔女と彼女の故郷

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第1023話 クロスステッチの魔女、芋団子を作り始める

 早速作って欲しいと言われたので、墓参りが終わってすぐに台所を借りることにした。変わっていない。とても、変わっていなかった。昔は、ここでよくスープを煮たりしたものだった。かまどの火は、寒くなってきた後にはどれだけありがたかったことか。言いつけがない時は台所にいて、かまどに手をかざして温まっていたものだっけ。気づいたら皆、寒くなったきた頃に私へ言いつける用事がある時は、真っ先に台所を探しに来るようになっていた。


「あれ、でもこんなに台所って低かったっけ?」


「それは、魔女さまが成長されたからでは……」


 私が台所に触れることに、義兄嫁にあたるラーニャはあっさりと許してくれた。そういうことを嫌がる人がいる、と聞いた記憶はあるのだけれど、どうやら、ラーニャはそうではないらしい。


「まだ二十年だと思っていたのよ、私」


「夫は養いっ子が魔女になったのは、結婚した時に二十年近く前だと言ってましたよ」


「ボケるのは当分先だと思っていたから、少し落ち込んじゃうわ」


 事実、あの時は大きく見えた何もかもが、こぢんまりとして見えていた。かまども、鍋も、包丁も、全部だ。重かったはずの道具類も、今では簡単に持てる。


「で、ええと、芋団子だったわよね。ラーニャはどうやって作るの?」


「あたしもまあ、同じ山の別の村から嫁に来た身なんで、あんまり変わらないと思ってたんだけれど……」


 そう言いながら、ラーニャは自分の故郷で母が作っていた芋団子の作り方を簡単に話した。とはいえ、同じような土地なら材料は大して変わらない。小麦粉を水で練った生地を丸めて、上に角切りにした芋をまぶすのがラーニャの流儀だそうだ。確かに、私や義母さんが作っていたものとは違う。


「まさか、芋団子ひとつで違いがあると思う日が来るとは……」


「わかるわ……私も今驚いてる……」


 ちなみに数日出払うような狩りの時には、芋団子は日持ちをしないから間食としてあまり向いていない。しかし、その日の間に食べてしまうには十分なので、近くの森に行くくらいの時にはよく持たせたり持って行っていた。小麦粉が乏しい時は、まだこのあたりで育つから食べやすい蕎麦粉になる。こうなると生地の色は白から薄い灰色になって、それを少し侘しく感じるのは気のせいではないはずだ。秋になると、どんぐり粉で作る時もある。ただ、やっぱり小麦粉が一番だ。


「よし、やろう。粉は何がある?」


「小麦粉でも蕎麦粉でも、どんぐりでも」


 どんぐりは去年のものらしい。ついでにクッキーでも作りたくなってきた。

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