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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
44章 クロスステッチの魔女と彼女の故郷

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第1022話 クロスステッチの魔女、頼まれ事をする

 墓にあれこれと話すのは、終わるとひどくスッキリとした気分になれた。なるほど、こういうことのために墓があって墓参りがあるのか、と、やっと肌身の感覚として理解したような気分にさえなれた。後半は、心の中で語ったけれど。義兄さんやルイス達に聞かれるのも、少し恥ずかしかったから。


「……すっきりした顔をしているな」


「ええ。連れてきてくれてありがとう、義兄さん」


 義兄さんも義兄さんで、何かを心の中で話したのだろう。それは、私が聞くべきことではなかった。


「そうだ。お前が帰る前にひとつ、頼みがある。『魔女のキーラ』ではなく、『あの時一緒に住んでいたキーラ』に対しての頼みだ」


 私はその言葉に、首を傾げた。『魔女のキーラ』ではなく、『あの時一緒に住んでいたキーラ』に頼みごとがあるだなんて、何があるのだろう。養いっ子のキーラができたことと言えば、本当に家のこと——料理と洗濯と掃除くらいなのだ。たまに狩りの手伝いはして、石は投げていたし、今も命中率にはそこそこの自信がある。しかし、義兄さんの方がその辺りは得意なことを覚えていた。私より大きな石が投げられるし、私よりよく当たるのだから、このことについて私が頼まれることはないだろう。


「私に? 何かしら」


「なに、大したことではない。お前がお袋に習って作っていたアレを、また食べたいんだがな。お袋は色々あって……妻のラーニャに教える前に、死んでしまったんだ」


 なんでも、いわゆる嫁姑の仲はあまりよくなかったらしい。義兄さんも色々と骨を折ったようだが、お互いのわだかまりが解けた頃には時間がなかった。冬の寒さで病みついてしまってからは、あっという間だったそうだ。


「多分、覚えていると思うけれど……何を作ってほしいの?」


「芋団子だ。ラーニャも元の村では作っていたようだが、どうにも味や見た目が違うんだ。あれはあれで、悪くないんだが」


 ふむ、と私は思い返そうとした。芋団子は、よくおやつで作っていたものだった。小麦粉を水で練って、角切りにした芋を練り込んで、炉端で焼くだけの大変に単純なもの。単純すぎて、魔女になってからは作っていない——そういえば、お師匠様には前に作ったっけ。ものすごく珍しがられた。確かにお師匠様のようなお上品な育ちの魔女にとっては、卵や牛乳を使う余力もないような寒村の料理は珍しかったのだろう。そう思った記憶はある。


「材料があるなら、やってみるけれど……」


「それはある。頼めるか?」


 魔女である必要もないことだから、私は素直に頷いた。

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