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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
44章 クロスステッチの魔女と彼女の故郷

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第1020話 クロスステッチの魔女、墓参りに行く

「……キーラは、どれくらい滞在するつもりだ」


「長居しないわよ、冬備えの邪魔はできないもの。あと二、三日したら、出ようかなって」


 翌日の朝食の席で、義兄に聞かれた私はそう答えた。そうか、と頷いた彼は、私に「今日は、墓場まで来てほしい」と真剣な顔で話す。


「お前にとって、手放しでいい人ではなかったのはわかる。けれど、親父とお袋に顔を出してやってくれ。きっと気にしてるから」


「……わかった」


 ルイス達がやや心配そうに私を見ているのはわかるけれど、私だって、もう大人なのだ。ここは頷いて、今日は墓参りに行くことにする。サーシャ達はついてこないそうだ。


「墓場に行くの、久しぶりって感じがしないのよね……」


「《生者の義務》をしてたら、そうもなるか。あれについては、引き受けない選択肢がないからな……」


 もっと早く誰かを確認にやるべきだった、と言いながら、義兄さんは村を出て森に向かう。私も、その後ろについて行った。森の入り口、まだ森とも呼べないようなところに柳が生えていたので、二人とも落ちていた枝を拾った。土の汚れがあまりついていない、綺麗そうなものを選んで、地面につかないように丸める。よくしなる枝をくるりと丸くして、根元の部分に先端を絡め、ひとつの輪にした。もちろん、葉はつけたままだ。


「……覚えているものだな」


「ちゃんと、あっちの村では戸口全部にかけてきたわよ」


「ふむ、なら、よし。忘れていると思ってた」


「案外覚えているみたい、自分でも意外なことにね」


 そんな話もしつつ、今度こそ村はずれの墓場に向かった。

 ……とはいえ、土盛りの上に白石が置いてあって、その大半が苔むしている。その光景は、私が埋めてきた村とあまり変わらなかった。まあ、そりゃあ同じ山なのだから当然だ。


「親父、お袋。キーラ連れてきた……本当に魔女になってたぞ、こいつ」


 この村で読み書きのできる人は、ほとんどいない。だから、墓石には街と違って、故人の名前が彫ってあるわけではなかった。故人の好きだったものとか、表すようなものとか、そういう絵が彫られているのだ。ただ『この辺りは誰の家の墓』というのがあって、最近の死者ならすぐにわかる。だから、その白石に対して声をかけた義兄さんを見て、私もそこだと分かった。


「お久しぶり、です。キーラ、戻ってきました。とはいえ、あっちにも家があるし、数日したら山の外に帰るつもりだけれど」


 私はそう言って、枝の輪を二人に供えた。

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