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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
44章 クロスステッチの魔女と彼女の故郷

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1012/1070

第1012話 クロスステッチの魔女、昔馴染みに思いを馳せる

 私が知っていた人達の半分は、村からいなくなったとバア様は語った。嫁に行った者、出稼ぎや独立で離れた者、死んだ者。養父母は死んでいると思っていたけれど、年の近かった近所の子が事故で死んでいたのは、意外だった。当時の彼は、体力自慢で死ななさそうに見えたのに。


「アレは父親から仕事を教わって、一人で森に入った時に帰って来なくてなあ。村の者達で探したら、地滑りに巻き込まれておった」


「そういえば、彼、何かと運は悪かった気がする……」


 当人には悪いけれど、なんというか、心当たりはあった。言われてみると、そこまで意外ではないような気がする。次男や三男にあたる男達は、移住なり出稼ぎなりで大半が村を離れたらしい。村に残っている方が少なくて、便りはあったりなかったり。字の読める村人も少ないし、書ける人も少ないから、代筆屋に書いてもらった手紙を村長に読んでもらっているそうだ。そういえばそんな光景は、私が村にいた時から見たことがある気がする。うん、確かにそうだった。


「嫁いだ子達は? どうしてるの?」


「たまに子供を連れて顔を出した女もいれば、親を呼びつけるようなことをしたのもいるし、孫を遺して死んだのもいるさね。三十年も経ってるからねぇ」


「やっぱり本当に三十年なの?」


 あの時の村の大人世代で今生きているのは、多分、四分の一もいないだろう。《輪振る舞い》の時に、老人が少なかったから。この間の冬でやっぱり、老人と赤子はそれなりに死んでしまったそうだ。去年に帰っておけば、もっと知った顔に会えたのだろう。


「村に来た魔女が、養いっ子のキーラだとわかったら、皆、もっと話を聞きたがるだろうよ」


「恥ずかしいなあ……」


 気づいてほしかったくせに、とバア様には言われた。


「そうでなければ、昔にやった《語りの玉》を持っていたりはせんだろう」


「ああ、これ、そんな名前だったわね」


 魔法でもなんでもない。簡単に作れる玉。物語をひとつ、習い覚えたことを表すだけの玉だ。ひとつ持っているくらいでは、弟子とも思われない。作り方だって、丸くした木に簡単な絵を描いただけ。もちろん、魔法はカケラもかかっていない。


「捨てても良いものであったし、何より、わざわざ出す必要もなかった。気づいてほしかったなら、素直にそう名乗ればよかったものを」


「忘れられてたら寂しすぎたし……」


「その手の話として、木の玉になるだけじゃ」


 確かに突然消えた女が、ひょっこり帰ってくる話があったっけ。バア様が教えてくれた話だった。

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