第1011話 クロスステッチの魔女、近況を聞く
「キーラ。あんたが《生者の義務》を果たしてきたことについて、話せるかい。あそこの村に、何があったか」
「わかった。私が立ち寄ったのは、ここから南の村で――」
その求めに応じて、私は埋葬してた村の話をすることにした。最初に、打ち捨てられた小屋を見つけたこと。嫌な予感がしながら行ったら、村には人気がなかったこと。黒い犬が一頭いて、この子に案内される形で村の人達を埋葬したこと。幸運にも、彼らはすでに骨になっていたこと。
「……原因は」
「病人が流れ着いて、その村で死んだそうよ。あっという間に病が広がって、ふたつの病人小屋は死人でいっぱい。入りきれなかった人達は、家で朽ちていたわ」
「わぁ……」
サーシャもいたけれど、彼女は今ひとつ、意味がわかっていないようだった。《生者の義務》はちゃんとやらないといけないことだから、遠ざけずにそのまま聞かせたけれど……理解しきれているか怪しいなあ。まあ、その辺りは周りの大人が教えないといけないことだから、そこまで面倒は見なくていいか。姪っ子のようなものとはいえ、ここに留まる予定はないのだから。
「ちゃんと、小屋は焼いたのかい」
「もちろん。骨を運び出した家にはちゃんと、枝の輪をかけておいたわ」
「なら、よし……いつも細々と働いていた割に、そういうこともちゃんと覚えていたようだね。感心、感心」
バア様はどこまで本当に褒めているのかわからない、相変わらずの言い方をしていた。ついでなので、思いきって聞いてみる。
「そういえば、私がいた頃の人たちは? もうみんな、死んじゃったりしたのかしら。《輪振る舞い》の時に覚えのある顔は見たけれど、思ったより少ないから……」
私の問いに、バア様は答えてくれた。
「まずはあんたの養い親の二人……は、五年前に病気で相次いで死んだよ。あんたが魔女に連れられて行っちまったから不便になった、ってぼやきながら、心配はしていた。詳しくは小僧に聞きな」
小僧……義兄のことだろう。もう子供も「小僧」と言うには大きいのだけれど、そういえば子供の頃もそう言われていた。
「それから、この弟子はあんたも知っている女さ。狩人ゼムの娘だよ」
「知っているような気がすると思った……あなた、リーシャ?」
「同い年だったはずなのに、随分と変わってしまったわね、キーラ。父さんが死んで、弓は兄さんが継いだの。後で挨拶してやって」
友達、と言っていいかはわからないけれど、時々話していた少女の面影が、確かにそこにあった。




