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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり
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第101話 クロスステッチの魔女と雪兎の精霊

「さて……アワユキ、私のことがわかる?」


『はーい、主さま』


 アワユキは、私が作りかけていた雪兎の中に移動したようだった。葉の耳を少し揺らして、私の声に応える。まだ目にするものを見つけていなかったから、目になるものを当て嵌めるつもりで開けていた窪み。それを細めて、アワユキは私の方にひとつ雪兎の体で跳ねた。アワユキの声はルイスと違って、魂や頭に直接話しかけているような感覚がしている。そのためか、性別もわかりにくかった。男とも女ともわからないような名前にしたのは、正解だったかもしれない。


「私のつけた名前を受け入れてくれたということは、私と契約してくれるのね?」


『アワユキって名前は素敵だし、あなたは若い魔女だけど魔力は多いもの。甘くて美味しかったし!』


 手の中にすぽっと収まった雪兎は、作った頃よりかなりひんやりとしていた。アワユキが中に入ってるからかもしれない。あ、大事なことを話しておかないといけない。


「この体、春になったら形を維持するのに魔法を多く使うと思うから、冬の間に新しい体になるものを作るわ。それに移ってもらうのは大丈夫?」


 消えかけの精霊の前に焦ってしまって、咄嗟にやってしまったのだ。雪兎にアワユキが入っているということは、おそらく本来は体になるものを用意してから契約するものだったのだろう。


「あのですねっ、マスターに作ってもらって、マスターの魔力でひたひたになれるの、きっとアワユキさんも気に入りますよ!」


『主さまと違う? だぁれ?』


 ルイスが机の上にぽんと飛び上がって、アワユキの冷たい体に恐る恐る触れた。アワユキの方はルイスから伝わる私の魔力に、自分と似た存在だと理解したらしい。嬉しそうに耳を揺らして、『兄さま』と呟く。


「わ、マスター、僕にもアワユキの声が聞こえた? 感じた? ようになりました!」


「ああ、やっぱりルイスには伝わらせてなかったのね。アワユキ、これからは私とルイスにお話してくれるかしら」


『はぁい、主さま』


「僕はルイス、マスターに買っていただいた《ドール》です。よろしくお願いしますね」


 アワユキはルイスを見て、少し不思議そうに首を傾げたように見えた。けれどアワユキの語彙ではどう言っていいのかわからなかったらしく、結局、鼻面をこすりつけて『よろしくー』と言うだけで終わった。少し、ホッとした。


「春までにやらないといけない、大きな課題ができちゃったわね」


「アワユキの新しい体です?」


 私を見上げるルイスを撫でて、「そうよ」と言う。私にできる一番いいものを、アワユキには作ってあげたかった。

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