第1008話 クロスステッチの魔女、知り合いに再会する
翌朝、私はサーシャに語り部のバア様のところへ連れて行ってもらうこととなった。ネエ様に選ばれたのが母親の知っている女だった縁で遊びに行くようになり、バア様にも懐いたらしい。バア様は、昨夜の《輪振る舞い》にはいなかった。もう随分と年だから、寝てしまっていたらしい。その分の椀は、ネエ様が持ち帰っていたそうだ。
「魔女さまを連れていくんなら、バア様が元気そうかも見といてくれ」
「はぁい」
村の記録の中でもかなりの長寿だから、心配されているらしい。母親の言葉に、サーシャは慣れた様子で返事をした。
「きっとね、お人形さん達のことも気にいると思うの!」
「そうなんですか? それは楽しみです」
バア様は私の記憶と変わらない、村から少し離れたところの家に住んでいた。二人は暮らせるような家で一人暮らしをしていたから、お役目のある人として広い家に住んでいるのだと、当時は思っていたのだけれど。
(今にして思うと、こうやって弟子と過ごすための家だったのね、ここ)
記憶にあるよりも小さい気がするけれど、石は昔より古くなっている。そして、色褪せたタペストリー。多分、私の背が伸びて、視点が変わっただけなのだ。ここに限らず、いくつかの建物が小さく感じるのは。
……二人用の家を広く感じたとはいえ、山の侘しい村での基準。麓や都会の家と比べれば、バア様の家も、村長の家も、小ぢんまりとしていた。大人になってしまったな、と苦笑していると、サーシャが扉の前にかけられていた魔除けの玉幕を触った。もちろん本当の玉ではなく、磨いて脂を塗った木の玉が連なったものだ。触れると音を立てるから、木窓を開けている夏の間はノッカーも兼ねている。窓を閉めてしまうと聞こえなくなるけれど――石造の家において、ぬくもりを逃さないように作るとどうしてもこうなるのだ。この村ではすべて、窓も扉も重く詰まった木を使う。
「バア様ー、ネエ様ー、お客さんだよー」
「あらあら、サーシャちゃんね?」
しばらくして、扉が開き、一人の女性が現れた。どうにも既視感がある、四十か五十くらいの女だった。彼女は玉幕と同じ木の玉に、模様を掘り込んで連ねたものを腕輪にしているのが目立つ。そして、同じような木の玉に、違う模様が彫り込まれた首飾りをつけていた。
「あ、腕輪になったんだねぇ」
「そうよ、早くこの分も首飾りになれるまで覚えろってうるさいのだけれど」
「バア様元気? ってお母さんが」
「起きてるわよ。魔女様もいらっしゃいな。あたしは語り部のネエ様……後継者で、ダーリヤといいます」
その名前で、話した覚えのある子だと気づいた。




