第1002話 クロスステッチの魔女、女達に囲まれる
その日の夜は、私のために《輪振る舞い》を開いてくれた。大きな塊のパンも魔法で出したから、みんなはとても喜んでくれた。
「客人は座っていておくれよ、手伝いなんてさせたら怒られちまう」
つい昔の覚えで手伝おうとして、そんな風に言われて案内された席に座っているのが今。とても、落ち着かない。
「マスター、そわそわしておりますね」
「何かやらないといけない気がして……」
《輪振る舞い》は好きだった。養いっ子で村の血縁ではない私は、村の風習から外に置かれることが多かった。それでも《輪振る舞い》のご馳走は、客人を含めた村にいる全員に施される。だから、食べさせてもらえたのだ。客人が来てあの大鍋が出された日は、とても嬉しかったことを今も覚えている。毎日来て欲しいとさえ、思っていたのは確かだ。
「ねーねー、これなぁに?」
「この子達は私のお友達よ」
「うちにもお人形いるよー」
ルイスに興味を持って話しかけられた子に対して、ルイスを触らせてやりながら答える。アワユキも別の子に手を伸ばされていて、他の子守りをしている女達もチラチラと《ドール》に興味を持っているのがわかる。確かに、山の服とは素材と作りも丸きり違うものを私はみんなに着せていた。
「あのう、魔女様、服を見せてもらっても?」
「あら、私も? 構わないけど」
確かに綿の布の服は、こういう場所ではあまりない。山羊の毛織か毛皮だ。軽くて良さそう、という声が誰かから上がったので、頷いておいた。実際、お師匠様の元に来て綿の服を初めて着せてもらった時の衝撃と来たら!
(麻だの絹だの、色々な布を試させてもらったなあ……魔法に使わない素材でも、知っておくのは大切だから、って)
そんなことを思い返しながら、裾や袖を好きに触らせておく。あちこちの刺繍はすべて、もちろん私が施したものだ。だから、「綺麗ねぇ」という言葉もとても嬉しい。
「ねーねー魔女さまー、なんで大人なのにお人形いっぱい連れてるの?」
「魔女は長生きだから、長生きするお友達が欲しいのよ。それに、魔法でできたお服を着せて、他の魔女と着せ替えたりして遊ぶのも楽しいのよ」
「へー」
いいなあ、とその女の子に言われた。その子の手には、遊びこまれたらしき布の人形が握られている。
「この子、お服は変えられないの」
「ああ、そういうお人形さんもいるものね」
「ちょっと羨ましいけど、この子のことはずーっと好きよ。わたしのいもうとだもの」
人形に頰を寄せている少女を見ていると、誰かが鍋が煮えたと声を上げていた。




