予定外の遠回り①
アレイディアが宿のミトラの部屋の前で彼を待っていると、ミューと手を握って戻ってくる様子が見えた。
(少しずつ、ああいう光景にも慣れないとな)
心に立ち昇ったモヤモヤした気持ちを抑え込み、片手を上げて二人を呼ぶ。
「おかえり、さてそれじゃあ会議を始めようか。」
ミトラはミューの手を離し、黙ってドアを開け、二人を中に招き入れた。
部屋に入り、これからどう行動していくかについて話し合った。
「今後のことだけど、これ以上ここでウシュナの情報を手に入れるのは難しいと思うの。だから最初の予定通り、王都で調査を続けたい。」
「まずは図書館でいいのかな?」
ミトラが尋ねるとミューは頷く。
「あ、それと、ここに来る前に気になっていた件も調べたいの。」
「ああ、例の栞の件か。」
アレイディアとミューが何やら納得しあっている様子に少し苛立つ、が、それよりも何か心に引っかかるものがあった。
「栞?もしかして・・・黒い石が付いている栞のことですか?」
ミトラの言葉に二人は驚く。
「ミトラ、その栞のこと、どうして知ってるの?」
「君を追ってテラトラリアの星宮に来た時に、星拝堂で暴れた男がいたんです。制圧した男と話した時に、知人から借りた本の中にその黒い石の栞が入っていたと、握りしめたそれを見せてくれました。」
「知人・・・」
ミューがその言葉に考え込む。
「それを拾ってからは我を忘れて暴れてしまったと。それでその男と、男が持っていた栞にミューから聞いていた例の泉の水を使ってみたら、体調の悪さが軽減した。つまりあれは禁忌の力を持つものだったのでしょう。」
「ああ、あの泉!」
「効果はきちんと出ましたよ。教えてくれて助かった。」
「そう、よかった!」
アレイディアがそこで疑問を口にする。
「栞が同じものだとして、知人と言われている男はなんでそんなものを配るような真似をしてるんだろう?」
「確かに・・・。あ、そういえばパン屋の店員さんが、その栞を配布している男性らしき人と、ミトラがドアですれ違ったって言ってたわ!」
ミトラは首を傾げて考え、ああ!と思い出す。
「そういえば足の悪そうな男性とすれ違いましたよ。」
「「その人!!」」
ミューとアレイディアの声が重なる。ミトラは嫌そうな顔を隠しもしなかった。
「息がぴったりですね。」
「ひっ」
「・・・でしょう?」
アレイディアを軽く睨むと、間が持たないミューは慌てて栞の話に戻す。
「そ、それで!その左足を引き摺ったように歩く男性が、私達が船で会った男性にその栞を渡したらしいの。『揉め事を起こす力』があるって言われて婚約者と別れるために使ったらしいわ。」
ミトラはさらに渋い顔になる。
「それで、その怪しい男性を見つけて事情を聞きたい、いうことですか?」
「そう。」
「なるほど。」
アレイディアが話をまとめる。
「とにかく、テラトラリアの王都に戻る!これが先決だね。街道を戻れば・・・」
ミトラがその言葉を手で遮る。
「いや、近くにある星宮経由で戻りましょう。」
「え?転送?いいの?」
「もちろん。事情も事情だし、早い方がいい。」
「ありがとう!」
アレイディアは星宮経由なら、またミューをあんな目にあわせずに済むと、少しほっとしていた。一区切りついたところで「ちょっと水を飲んでくる」と言って席を立つ。
水を所望したところ、宿の奥さんが気を利かせてお茶を淹れてくれたので、ありがたく三人分頂いて部屋に戻る。
そしてその途中、せっかく決めた予定を覆す話が耳に入った。アレイディアは部屋に急いで戻り、慌てて二人に報告する。
「大変だ、街道が全て封鎖されてる!」
「「街道が封鎖!?」」
「・・・」
そっちだって息ぴったりじゃないかという言葉を、アレイディアはなんとか飲み込んだ。