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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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ウシュナの記憶

 ミトラの元に村長の孫だと言う男が現れたのは、夕暮れが近付いている頃だった。村長に似てがっしりとした筋肉質の体格をしたその男は、ジェイデンと名乗った。


「・・・ご案内します。」


 無口で無愛想な男だ、などと考えながら彼に連れられて移動する。ミュー達は先ほど村長には会っていないため、今回は宿で待っていてもらうことにした。 




 その話をした時、ミューにようやく、あのバングルを返すことができた。


「ミトラ・・・これ!」

「君にこれを返せてよかった。これからは絶対に外さないで。俺とミューの繋がりを切らないで欲しいから。」

「・・・うん。」


 顔をほんのり赤らめてバングルを着ける姿が可愛くて、また彼女を抱きしめ困らせてしまった。


(いつまでも余裕が無いな、俺は。)


 そんな出来事を思い出しているうちに、村長の別邸に辿り着いた。




「どうぞ。」


 相変わらず言葉少ないジェイデンが、ドアを開けて中へ案内する。二階建ての少し大きめな普通の家だったが、どうやら地下があるらしい。


「こちらです。」


 そのまま地下に誘導されて、木の扉の先に進む。


 中に入るとそこは思っていた以上に明るい部屋で、普段から資料室として使っている様子が見受けられた。そしてその部屋の一角にガラス扉のついたキャビネットがあり、その扉はしっかりと鍵がかかっているようだった。


 ツカツカとジェイデンがそのキャビネットに歩み寄り、ポケットに入っていた鍵の束から一つ選んで扉を開いた。



「古いものです。この手袋を使って読んでください。」


 そう言って、もう一方のポケットから白い手袋を出してミトラに手渡した。手袋を嵌めると、キャビネットに近付く。



 古い本が一冊、書類のようなものが一部、そして最後は一枚の絵だった。


「この絵は、ウシュナ様の子供の頃を描いたものですか?」


 大人になった彼の面影を残すその絵は、少し痩せてはいたがウシュナの幼少期を描いた絵なのだろう。そう思ったが念のため確認する。


「ええ、そう伝わっています。」


 ジェイデンは後ろに手を組んでじっと立っている。



 書類の方はウシュナの生まれた場所や両親の名前などが載っている、いわゆるこの村での証明書のようなものだった。ただ特にこれといった情報は書いておらず、両親の名前にも思い当たることは無かった。



 最後にミトラは、本を手にする。


「これは?」


 とそれを開く前にジェイデンに確認すると、彼の日記です、と教えてくれた。


「日記・・・?」


 一番気になるものを手にしたミトラは、これを何とかお借りできませんかと無理を承知でお願いしてみる。


 すると予想に反して「構いませんよ」との返答が来る。


「本当によろしいのですか?貴重な資料として保管されているんですよね?」


 ジェイデンの目に初めて感情の色が見えた。


「いえ、私にとってはどうでもいいものです。村長はあの通り、ウシュナという過去の人をいつまでも自分の村の誉れ、追放されていても管理者という素晴らしい栄誉を掴んだ英雄、と誇りに思っているんです。そんな何百年も前の人にいつまでも頼って・・・とにかく僕にとってその資料はどうでもいいものです。好きに借りていってください。」


 ジェイデンの言葉には何かしら祖父との確執が見え隠れしていたが、ミトラはそれには触れず、遠慮なくお借りしますと言って丁寧にお礼を告げた後、宿に戻った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 宿に戻り四人で食事をとった後、部屋でウシュナの日記を開いた。ミューには内容を確認してからでないと見せるつもりはなかった。


 日記を持ち帰ってきたことは伝えたが、先に読ませて欲しいとお願いし、了承してもらった。




 その日記は、彼の十歳前後からの闘病生活の中で書かれたものだと、読み進めていくうちにわかった。


 かなり古いものなので時々読みにくかったり擦れたり破れたりしている部分もあったが、何とか言葉を拾いながら読み進めていく。



 その当時はまだ管理者の力が弱く、セトラの力である地力をうまく調整することが出来ていなかったのだろう。多くの三星達が当たり前に持つ『治癒』の力も、ウシュナの助けにはほとんどならなかったようだ。


 そして非情にも月日は流れ、彼は重い病を背負いながら大人になっていった。度重なる発作に見舞われ何度も意識を失ったり、母親が心労のため早くに亡くなってしまうという悲劇も訪れた。



 そしてその中でたった一つ、彼の希望として描かれていたのが、アミルのことだった。


(彼女への執着は、ここからだったのか)


 アミルはこの村の生まれではなく、たまたまその当時の管理者に連れられて長期滞在をしていただけだったようだ。アミルの方が少し年上で、当時にしては地力が強かったこともあり、ウシュナの父に依頼された彼女は彼に『治癒』をかけてあげて、年上らしく面倒をみてあげたりもしていたらしい。


 ただ、長年患ってきていた病は根本から治すことは難しく、繰り返し定期的に『治癒』をかけて、症状を抑えることしかできなかった。


 彼女はそれからも時々やってきては、ウシュナに『治癒』をかけ続け、その度に優しい言葉をかけてくれた。



 しかし数年後、日記の最後の方に、ウシュナの絶望が綴られていた。


 ある時、アミルが見たこともない男性を連れてきて『彼と結婚するの』と告げてきたのだ。


 ウシュナは自分がどれだけアミルに生きる希望を貰っていたのか、どれほど彼女を愛していたのか、その日にようやく思い知った。


 その暴力的なほどに彼女を想う気持ちが、書き殴られた文字から、ミトラの心に突き刺さるように伝わってきた。



 そして、彼女がどこにも居なくなってしまったことが記されたページで、日記は終わっていた。




 ミトラは日記を閉じる。


 ウシュナとアミルの関係性は見えてきた。だが、疑問が残る。


 まず、アミルが自分を次期管理者として育ててくれていた時、彼女は結婚などしていなかった。その男というのも全く記憶がない。


 そして日記の最後、『彼女はもうどこにもいない』という一文は、単にウシュナの前から消えてしまったということなのか、それとも・・・



 時計を見ると既に朝が近い時間だった。ミトラは日記をテーブルに置いて、短い睡眠をとるためベッドに横になった。


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