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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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ヒムノ村での調査

 翌日、ミューはミトラとアレイディアの三人で、今後何をどうしていくかについて話し合いを行った。


 ライラメアはヒムノ村では一緒に行動していくが、それ以降はミトラが一気にリンドアークの星宮に転送してくれるらしい。そのため今回の話し合いには不参加となっている。


「ライラがいない・・・」


 ミューは何だかちょっと寂しくなってそう呟くと、二人になぜか遠い目をされてしまった。



「まず、この話し合いの前に、情報共有をしてほしい。」

先陣を切ったのはアレイディアだ。

「そうですね。それぞれがバラバラの情報を持っているでしょうから、それぞれの話を聞きましょう。ミュー、君から。」


 ミューは耳に馴染んだミトラの敬語にちょっと安心感を覚えつつ、あの日ゾルダーク王城で偽の王に会い、気を失うまでの流れを説明した。あのウシュナという男から逃げられず、恐ろしい思いをしたことも嘘偽りなく話した。


 二人はしばらく黙り込んでしまった。


「つまり君はそのウシュナという男のことも、今とは違う形で、永遠に生きるよう縛ってしまったってことか?」

「彼はそう言っていた。本当かどうかわからなかったけど、ミトラの話を聞いて真実だと確信した。」


 ミトラもミューに尋ねる。


「ウシュナは君のことを『あのひとに似ている』って言ってたんですよね?状況を考えるとアミル様のことだと思うのですが、思い出す限りそこまで顔が似ているとは思わない。他に何か言っていませんでしたか?」


 ミューは、いいえ何も、と答える。


「禁忌の力についてはどう思う?彼は結局何かとんでもないものを持ってたのか?」


 アレイディアが前のめりに質問する。


「正直わからない。でもあんな大きな力を放つものがあったらある程度の大きさだろうし、そんな物体は見当たらなかった。それに・・・」


 二人がミューに注目する。


「彼はこう言っていたわ。『君が二度目にこちらに帰ってきた日。私は君が運んできたあの力に侵食され、あの力を育んで生きてきたんだ』って。」


 ミューは言葉に出すことを躊躇う。


「それってつまり・・・彼自身の中に、あの力が宿っている、のかな?」


 三人はそれぞれが考えていた最も悪い予想が同じものだったと気付き、言葉を失った。



「とにかく、この村でまずはどんな伝承や記録が残っているのか調べよう。」

「そうですね。ここを調べて何もなければ、テラトラリア王立図書館の特別室で調べみましょう。」

「そっか、ミトラは入れるのよね。」

「ええ。」

「わかったわ。二人ともありがとう。じゃあ早速手分けして調べましょう!」


 その後、ミトラからもウシュナについて知っていることを再度共有してもらい、具体的に誰がどこで何を調べるのかを決めると、三人ともすぐに宿を出発した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ミトラはこの村の村長の元に向かう。星宮管理者という肩書きが役立つだろうと自ら判断した。


 ヒムノ村の村長は八十代前半の男性とアレイディア情報で聞いていたが、そんな風には全く見えないほど、頑健な体つきとしっかりとした物言いをする人だった。


「ヒムノ村村長、ヤーデル様。私は星宮管理者のミトラと申します。この度はお忙しいところお時間を作っていただきありがとうございます。早速ですが、実は先日から「ウシュナ様」のことを調べているのですが、何かこの村に彼の情報が残っていますでしょうか?」


 ミトラはあえて一気に本題に話を持っていった。


「星宮管理者ミトラ様がまさかこのような小さな村にいらっしゃるとは・・・長生きはしてみるものですな。さてお尋ねの内容についてですが、少しだけでしたら当時のものが残されております。ただなにぶん名前を歴史から抹消された存在ですので、我々もおおっぴらにその名を口にできないのです。」


 ヤーデルはゆっくりとまばたきをしてから話を続ける。


「内密にうちの孫を宿に向かわせます。それを追って後ほど我が家が所有している別邸に来てみてください。そこであなたが必要としているものをお見せしましょう。」


(さて、何が出てくるかな?)


 ミトラは黙って頷き、丁寧にお礼を述べて宿に引き返した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ミューとアレイディアは、その頃二人で村の様々な場所を巡っていた。「貴族の兄妹」という設定で動いた方がいい!とのアレイディアの提案で、ゾルダークの時のような仲良し悪巧み兄妹は調査を開始する。


 どうしてまた兄妹設定なの?とミューが尋ねると、もし「どうしてそんなことを調べているのか」と聞かれても、妹が貴族学校の研究課題にしているんですと誤魔化すことができるから、だそうだ。


 ミューはなんだか煙に巻かれたような気分だったが、まあいいかとそのまま調査を継続した。



 ちなみにミトラはその話が決まった後、すっかり真顔になってしまった。


 後でまた宥めないとまずいかしらなどと考えながら、予定通りアレイディアと共に村内にある資料館や図書館など、何かしらの文書が残っていそうな場所を調べていった。



「特に残されている資料みたいなものは無かったね。やはり名前を抹消された存在というのが大きいかな。」


 宿の近くまで戻ってきたところでアレイディアが考え込みながらそう言うと、ミューも小さく頷いて同意した。


「そうね・・・ところでお兄様、なぜその話を後ろから抱きついて話す必要があるのかしら?」


 アレイディアは元末っ子の武器を存分に使って、


「え?なんで?妹に甘えてるだけなんだけど、だめ?」


 と言ったところで首根っこを掴まれて引き剥がされた。


「駄目に決まってる。」

「おっと、お早いお帰りで。そっちはどうでした?」


 ミトラが目を細めながらアレイディアをポイッと捨てる。


「ええ、一応資料はありそうですが、それがどのような内容なのかはわかりません。宿に迎えの方が来てその資料が保管されている場所に案内してくださるそうです。さあ、一度部屋に戻りましょう。」


 ミューの手を取りミトラはさっさと歩き出した。


「ミュー、後でゆっくり話をしようか?」

「ひゃっ!?」


 ミトラの怪しく光る瞳は、笑顔なはずなのにものすごく怒っていることをミューに警告していた。


(あれ?余計盛り上がっちゃったかな?失敗したか・・・)



 『永遠に生きること』ミューの未来の幸せを願って決断した、それはアレイディアの本心だ。それでも、最後まで彼女を愛しているこの気持ちは変わらないし、本当は心のどこかで、諦められない自分を感じていた。



(でも、一緒にいられる、まずはその幸せを大切にしていこう)



 アレイディアは先を楽しそうに歩く二人の姿を、少し悲しそうに、眩しそうに見つめていた。


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